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「ビルティはオムライス食べれるスか?」
「オムライス。赤、青、緑。デスメタルフライドペッパー。好きじゃない」
「? よくわかんねッス」
「オムライスの話オレしてる」
「たぶん似て非なるものスね……まあいいや。ココさんの素朴オムライスは絶品なんで、好きになるスよ。オムライス嫌いな人類いないス。トカゲも好きス。ビルティも好きス。間違いない」
「くく、オムライス空飛ぶのに」
「飛ぶ前に食う」
狩人のような目つきで断固食すと拳を握った澄央とビルティの会話は、通じているようでいないような会話だ。
九蔵は黙って聞いていたが、お互い正しく伝え合う気はないらしい。
澄央は「その前にお手洗い借りるス」とマイペースに立ち上がり、トイレへと消えて行った。
残された九蔵とビルティの間に、ひとまずまったりとした時間が流れる。
「ナス、いい男。オレいい男好き」
「ん? ん。そうですね」
「アリス、もっととぐろ巻くいい?」
「いいよ。絞め殺さないようにな」
「アリス好き」
クククと喉を鳴らして喜ぶビルティは、九蔵を確保していたとぐろをコンパクトに巻きなおした。
脈絡のない話に脈絡のないとぐろだ。
よくわからないが理由がありそうなので、九蔵はとぐろの中で身をかがめる。
ビルティも自分のとぐろの中に身をかがめ、九蔵の耳元へヒソヒソと声をひそめて話しかける。
「オレ髪似合う?」
「似合ってるぜ。俺はまだあんま直視できねぇけども」
「あぁ。オレアリス見る」
「なぜ。や、まぁいいか……」
見られても困るのだが今は諦めよう。ビルティは九蔵をガンと見ながら、自分の髪をチョイとつまんだ。
「オレの髪、ナス切った。不思議思う。シャワーした。温風。なんで?」
「ん?」
「オレ拾うしたのも変。ナス変。なんで?」
首を傾げて不思議がるビルティ。
「オレ遊戯室抜け出した。まぁ草むら。寝てただけ。元気。でもオレ拾ったナス、オレ外出る不審言った。トカゲ歩くいくない。トカゲ足あるぜ。足あると歩く普通。当然。常識。ヘビ歩かない、トカゲ歩く。足あるから」
「はい」
「でも不審言った。じゃあ変。不審なオレ拾ったナス変。な?」
「そうですね」
「で、聞いた。聞いた。『オレ不審思うない?』。ナス『思うスよ。けどバイト帰りで時間あったし暇だったんで好奇心半分でトカゲ助け』。ワーオビックリ。時間、暇、好奇心、服。くれた。なんで?」
「なるほど……」
九蔵は腕を組んで頷いた。
ビルティの難解な言葉も、元来器用な上にあらゆる乙女ゲーでクセの強いキャラも攻略してきた九蔵はなんとなく解読できる。
ビルティは澄央の行動原理が理解できず、本人に聞いた。
前に遊戯室で九蔵にも「見知らぬトカゲをなぜ信じるのか?」と聞いてきたので、疑問はそのまま尋ねる性分なのだろう。
そして澄央の返答に驚いた。
ビルティはケガも病気もしておらず元気でピンチではなかったのに、不審なビルティを不審と思いながらも助ける澄央がわからない。
ピンチでないならトカゲ助けはしなくていいはず。なぜこんなによくしてくれるのか?
要するにそう聞いているビルティの言い分を九蔵が理解すると、ビルティはアリスアリスと懐く。
「ククッ……ほら。アリス、変。わかる」
「突然のディス」
「アリスオレ疑うない。まぁわかる。アリス変だから。普通悪魔好きない。アリス黒ウサギ大好き。変。な? でもナス普通の人間。普通オレ怖い。怖がらない。変。な?」
「あー……言ってることはわかるけど、あんま気にしなさんな。嬉しかったんだろ? ナスの普通はアレなんだよ。ナスはそういういい男なんです」
「ふぅん……アリス変。ナス変」
「俺は変違います」
わかったようなそうでもないような反応をするビルティに、九蔵はがっくりと呆れた。
しかしビルティは「アリス変」と笑う。
「オレ会話する。わかるアリス変」
「それは慣れ。俺の普通」
「アリス変は普通。わかる」
「あぁうん。もうそれでいいか……」
「……アリス。ナスわからない。オレの言葉。でも気にしない。わからない、聞く。困る聞く。ナス、ずっとナス」
「ん? じゃあ変ってことでもねーだろ?」
「変違う?」
「うん、変違う」
ビルティはキョトン、と目を丸くした。
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