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 九蔵からするとシンプルな答えだが、本人は気づいていなかったようだ。 「ナスはビルティの言ってることあんまわかんなくても気にしてねぇし普通に話しかけてくるんだし、ビルティはナスが自分の言葉わかってくれてなくても話するの嫌じゃない。と、俺はさっき見てて思ったけど……違うか?」  なので丁寧に言葉にして尋ねなおしてみると、ビルティはパチクリと何度か瞬きをして、九蔵の目を見つめる。 「違うくない」 「ん。じゃ、よろしいでしょう」 「よろしいでしょう」  コクリと頷くと、ビルティも九蔵を真似て頷いた。別に悩む必要はない。  澄央はいい男だと九蔵が世界に保証するし、澄央がいいと言うなら深く考えずにいいと思っておけばいい。  出会ったばかりの頃は九蔵も他の人に対するように澄央の本心は問題ないのか気にかけていたものの、長く付き合うにつれて、澄央はいつなんどきも澄央だと理解した。探るだけ無駄だ。 「ビルティはナスが好きなんだよな」 「…………」  自分からあまり人に触れない九蔵だが、ビルティの胴体部分は人体な気があまりしないのでポンポンと軽く触れる。  するとビルティはなぜか薄ら笑いのまま眉を下げ、ゲス感のある表情に変わった。  おそらくしょげているだけだ。サイコ系イケメンは損なものである。 「なんでしょげてますか」 「オレナス好き。アリス好き」 「へっ。……あ、ありがとさん。俺さんもビルティくんが好きですよ。うん。ナスも好きだ」 「両想い。……ナスも」 「ん? まぁナスも俺を好きって思ってくれてりゃ両思いだな」  不意打ちでストレートに好意をしめされた九蔵は、ドギマギとうろたえながらもなんとかさり気なく好意を返した。  しかしビルティは再びしょげる。  九蔵と両想いだと喜んだはずだが、澄央が九蔵を好いている確信があるようで、九蔵と澄央も両想いなのだとしょげたみたいだ。  九蔵はなんとなく察する。どうやらビルティは、自分も澄央に好かれたいと思っているらしい。 「勝手に決めつけんのはダメだけど……俺的に、ナスはビルティのことも好きだと思うぜ。好き嫌いあんまないナスは、嫌いなものをガン無視するタイプだからさ」  友人を慰めるイベントなんて、リアルではほとんどしたことがない。  自分なりにしょげる必要はないとフォローをいれてみるが、ビルティはなおもしょげたままだ。おかげで九蔵の眉までへにょりと困り始める。が、意外とあっさり解決する。 「………愛してる」 「それはオムライスのことです」 「ンあ? オムライス?」  オムライス、と九蔵が重ねると、ビルティは途端にしょげていた眉を山なりに盛り上げた。  九蔵はふむ、と一人納得した。  ビルティは澄央の愛してるを、九蔵への愛の言葉だと思っていたようだ。  それはそれで新たな可能性が九蔵脳内に浮かぶが、とりあえず今は自分の胸に秘めておくことにした。  こちとらニューイ成分不足で脳死中である。なにやらトラブルを抱えてアリスこと九蔵を探していたビルティの問題に、腹ペコの澄央までいる今、マルチタスクは控えたほうがいい。 「三角関係」 「ニューイと俺とナスのことじゃないよな? オムライスと俺とナスのことだよな?」 「あぁ、勘違い。オレオムライス嫌い」 「あー……まさかナスがオムライスに愛してるって言うとは思わなかったってことか。でも残念。ナスは俺よりオムライスを愛してる系男子です」 「……。オムライス憎い」 「うへぁ」  ビルティは薄ら笑いを浮かべたまま、九蔵の肩に顎を乗せて拗ねた。  やきもちを妬いているようだ。確かにオムライスは手ごわいライバルだろう。  澄央は炭水化物と一日でも離れると、エネルギー切れで睡眠を愛し始める。  おにぎりを与えると復活する。一番好きな炭水化物は白米である。  普段は人の恋路に手を出す気はない九蔵だが、少し気が迷った。  ビルティには遊戯室事件の時、物語のキャラクターでありながら九蔵に白ウサギの情報を与え、ニューイにヘルプを出してくれた恩がある。  おかげでギリギリ助かった。恩は返せる時にちまちまと返したい。いやまあ、そもそも恋路とも決まっていないが。  ビルティはビルティ基準でかっこいいと思った相手はすべからく気に入るようなので、今のところ全て九蔵の想像である。 「ビルティ、料理できたよな」 「ン? ン。ウミガメのリゾット。嫉妬の欲望添え。得意料理」 「じゃあナスのオムライス、一緒に作りませんか」 「作る」  ──だけど一応、アシストしておこう。  九蔵はビルティに人間に仮装するよう言いつけ、キッチンへ向かうのであった。

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