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 その後。  一緒に作ったビルティのオムライスは、普通に美味しくできた。  黄色いオムライスと赤いケチャップにしきりに首を傾げていたが、九蔵の動きを真似てのったのったと作成する。  普段料理本と解釈違いを起こしまくるニューイを相手にしているので、つつがなく進むだけで快挙だ。  とんでもないミスは起こさず多少玉子がアレなくらいで普通に美味しいオムライスを作ったビルティは、優秀生である。  澄央もおかわりを要求していた。  薄ら笑いのビルティはわかりにくいが嬉しげにおかわりを作っていたため、やっと恩返しができて喜んでいるらしい。  そんないきなりランチ会。 「そいや、ビルティはなんの用で俺を探してたんだ?」 「あ」  モグモグとオムライスを食べながら本題を切り出すと、ビルティはそうだったとばかりに目をパチクリとさせた。  本題を忘れてどうする。  よほどのことじゃないのか? 遊戯室のキャラクターは基本的に悪魔城から出られないのにここにいるということは、悪魔王に頼んで外に出してもらったということ。  九蔵はジットリと呆れた。電波ちゃんか、このトカゲは。 「言っとくけど、悪魔系のトラブルなら俺さんは役に立ちませんよ。今はニューイもビザの更新で帰省中だしなぁ……」  九蔵がそう言うと、ビルティは「悪魔系違う」と首を横に振る。 「オレ、アリス用ある。遊戯室系」 「ん? 遊戯室ってココさんがピンチだった遊戯室スか?」 「そうだぜ。ナスがイチゴのタルトを所望してた遊戯室」  不思議そうにする澄央。そういえばあの日、自分とニューイ以外はビルティに会っていなかったのだった。  かくかくしかじかと掻い摘んで説明すると、澄央は「あぁ。そんでアリスがココさんだったんスね」と納得する。  納得した澄央と九蔵がビルティに先を促すと、トカゲの赤い舌がチロ、と覗く。 「遊戯室……めちゃくちゃなった」 「「は?」」  ──そうしてショモ、と眉をハの字に下げるビルティの話は、まさにトラブル。  ビルティたち遊戯室の住人は、実のところうっすら他のゲームや物語とつながっている。悪魔王が収集した不思議のカケラの詰め合わせなのだ。  毎日ランダムに扉がつながるものの、実際には全ての世界が共通している。  そんなカケラは普段、悪魔王の小悪魔が管理しているのだが……ある日うっかり、たゆたうカケラ群をかき混ぜてしまったらしい。  おかげでビルティたちキャラクターは目を回してバタンキュー。  その時いくらかのカケラにバグが生じて、若干の(ひず)みができたそうだ。  今は小さな(ひず)みでも、放っておくと大きな歪みとなってカケラは混沌が満ちる。  そこで頼れるプレイヤーに覚えがあったビルティは、一人抜け出し──悪魔に理解がある上に幼い頃からソロでゲームばかりしてたゲーマーこと、九蔵を求めてやってきたのであった。 「オレ、正しい物語わからない。興味ないから。戻せない。でもアリス知ってる。だから救援要請。助けて? 遊戯室おいで。怖くないからおいで」 「あー……」 「なるほど……」  ユラユラと手をこまねくビルティに、九蔵と澄央はようやく事情を把握した。  目元に影を落としながらニヒルな笑みでおいでおいでと誘われると、端的に誘拐犯のようでダーティーくさい。  人間に仮装したビルティは、トカゲ感が薄れているので余計にだ。  グレーの肌は褐色になっている。服も澄央のおさがりを着ているので、一見して人間だ。九蔵に懐く人外は澄央のおさがりを着る運命にあるのだろうか。 「おいで。お菓子の家あるよ」 「ステイ」  若干思考が脱線した九蔵は、ビルティに待てを言い渡した。誘拐犯みが増すので、しばらく黙っていてほしい。 (シフト的に、今日明日くらいなら行ってもいいけど……悪魔の世界って、なんか悪魔同士でしか連絡取れねぇんだよな……) 「…………」  九蔵はチラリと、澄央を伺った。  一人で悪魔の世界に行ったことなんてない。ニューイに相談する暇もなさそうだし、そもそもニューイは連絡を返せないはず。  要するに、あれだ。  一人で行くのはちょっと心細い。  しかし九蔵は、そんなことをペロッとお願いできるほど人に頼れる男ではない。相手の都合やらが脳内で旋風する。  そんなわけで、澄央の様子を伺ってみる九蔵だったが。 「お、シフトは大丈夫スね。講義は休みましょ。代返とノートは友達に頼んで。あ、お弁当だけは譲れねース」 「ビルティ。ナスは人間界イチいい男だ。俺が保証する」 「ナスいい男」 「ん? 両手に花? よっしゃー」  ナチュラルにシフトを確認し手伝う気マンマンの澄央。九蔵はそっと澄央を抱きしめた。ビルティも真似て抱きしめた。  男二人に抱きつかれた澄央は、九蔵とビルティの尻を真顔で揉みつつ、喜びをあらわにするのであった。

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