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  ◇ ◇ ◇  遊戯室の歪んだ物語だけを集めてリング状に繋げた世界へやってきた九蔵たちは、真逆の方向からローラー作戦的に攻めていくことになった。  ついでにニューイに恋愛事情を話しておく。親しみやすさナンバーワンの悪魔ことニューイには、事情を知って協力してもらったほうが得策だ。  これこれしかじか。  ビルティが当たって砕けようが当たる気がなかろうが、好きなようにさせよう。我らは事情を把握し、モブに徹するべし。  特になにをするってわけじゃあない。  ただただ見守るのみである。  遊戯室のトラブルの裏で起こっていたミラクルロマンスを理解したニューイは、にべもなくシャイニングスマイルで頷く。 「つまり、真木茄 澄央と仲のいい私以外の悪魔には絶対にちゃちゃを入れられないようにしたいということかな?」 「話が早い悪魔様が恋人で俺さんは嬉しいですよ」 「かしこまるのだ!」  九蔵に褒められて嬉しいニューイは、デレデレと満面の笑みを浮かべて九蔵をむぎゅうと抱きしめた。  九蔵は「ぐえ」と声を上げる。  上げただけで、別に嫌じゃない。  なんせこちとら二週間のニューイロスを経て再会しているわけなので、絞め殺されたって困りはするが嫌がることはできないだろう。  ちなみにこの説明を始めた時点で、すでに九蔵はニューイに抱っこちゃん状態で抱かれていたことをお伝えしておこう。  真正面からお尻を持ち上げられている。  もちろんしがみつけるわけもないので、両手はニューイの肩に置いている九蔵だ。  いやまぁ、気持ちの上では全力でしがみついているが。脳内の小さな九蔵は、おかえりニューイさんだぜやっほいやっほい! と小躍りしているが。表には出すまいて。  なお、おかえりのキスは濃厚だった。  詳細は伏せる。 「ムフフ……ビルティは遊戯室のキャストであって悪魔ではないからね。性別のない者も多いため、セクシャリティはフリーである。真木茄 澄央がノーマルな男を恋愛対象から省いているのであれば、ビルティはうってつけさ」 「マジか。だからヤギマスク女装男な俺をナチュラルにアリスちゃん扱いしてたんだな」 「うむっ。ただ遊戯室のキャストたちは変わり者ばかりな上に惚れっぽいのだ……真木茄 澄央はマイペース過ぎてあまり他人が気にならない豪胆な人間だが、そもそも会話が成り立たない気もする……うぅむ、となると二人の現状が気がかりだぞ……!」 「ニューイさん、ウキウキですね?」 「楽しい!」  悪魔族ツノ骸骨種、ニューイ。人様の恋愛事情が大好きな、常時恋愛脳のラブストーリー特化型シャイニングワンコだったか。  恋人の新たな一面を発見した説明パートを終え、九蔵たちは予定通り物語の歪みを解決することにした。 「そもそも、ここってなんの物語なんですかね?」 「今のところわからないね……一応、物語ごとに扉には個性があるぞ。私たちが入った扉は白の混じった若葉色だったのだ!」 「うーん。それだけじゃちょっとなぁ」  てっくてっくと歩きながら、二人揃って首を傾げる。いつの間にか手を繋がれていた。うむ。ノーコメント。  遊戯室常連のソロプレイヤーだったニューイは、クリア方法がわかっていても元ネタは知らない。なので歪みの生まれたこの舞台では判断できない。  それは九蔵とて同じだ。  メルヘンを愛する男だが、メルヘンには愛されていない。自分で考えておいてさもしい現実である。  舞台にもおかしなところはなかった。  周りはのどかな草原で、遠くには山々が見える。空は青く澄んでいて、カラーリングも人間基準で間違いない。  ──そうして九蔵とニューイがあたりを見回しながら、歪みを探してなにもない道を進んでいた時。 「……ん? なにか聞こえるぞ?」 「言われてみれば……てか、若干地面揺れてねーか?」  不意に背後からドドドドドドという足音とパラリラパラリラとラッパの音がかすかに聞こえ、どことなく地面が揺れた。  ニューイが九蔵を抱えて飛び上がる。  遊戯室は悪魔的にお遊び程度の危険度らしいが、九蔵は人間なので念のためだ。備えあれば憂いなし。  上空から目を凝らす九蔵とニューイは「うーん?」と動きをシンクロさせて声の聞こえるほうへ目を凝らす。 「どいたどいたどいたどいたァァァッ!!」 「オラオラオラオラオラオラオラァッ!!」 「オウオウオウオウオウオォォォウッ!!」 「──ウ、ウオオオオオオオオンッッ!!」  そこにいたのは、豆粒ほど遠くからこちらへ向かって土煙を上げながら爆走する集団と──その集団に追いかけられて悲鳴を上げながら転がっている、見覚えのあるトラブルメーカーであった。

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