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 以前よりサイズは二回りほど小さくなっているが、真っ白い毛皮にモフモフの丸いボディ。長い耳と短い手足とあの嗄れ声は、間違いない。  あれは不思議の国のキャラクター。  慌てん坊の白ウサギ──カラダだ。  オラついた怒声を上げる珍走集団に追いかけられてオオンオオンと泣いている。  走っているというより最早転がっているものの、一応尻尾が見えるので白ウサギのシッポも一緒らしい。  ということは、ここは不思議の国だったのか? いいや。それにしては風景がマトモ過ぎる。なんの変哲もない草原や道なんかあの世界にはなかった。  ならば、白ウサギたちを追いかけているやたらオラついた集団はなんなのだろう?  九蔵はじっと観察する。  ニューイもじっと観察する。  毛の一本すらないツルリとした緑の頭。眠たげな吊り目。ゴツゴツとした甲羅。ずんぐりむっくりとしたフォルム。  ──俊敏な動き。スムーズな二足歩行。肉食獣バリのギザ歯。ノスタルジックなオールドヤンキー感。 「うむ。あれは子クッペ様だね!」 「違うッ! ウサギとカメだッ!」 「なぬっ!?」  閃いたとばかりに珍回答をするニューイの頭をペソン! とはたき、九蔵はこぶしを利かせた正答を叫んだ。  なんてこったい!  九蔵は頭を抱える。  不思議の国の住人であるはずの白ウサギがなぜかウサギとカメ、いやカメさんズに追われている。  しかもカメさんズがやたら俊敏だ。はなからウサギをねじ伏せる気しかない。 〝優れていても立ち止まればゴールはできず、劣っていてもコツコツ進めば遠いゴールにたどり着ける〟なんていう教訓なんて微塵も感じなかった。  なぜカメが俊敏な二足走行なのか。  なぜカメがオールドヤンキー集団なのか。  なぜカメが白ウサギを煽っているのか。  あの一角には、歪みしかないわけで。  そしてそれを、正すことが目的なわけで。 「九蔵、九蔵」 「あ゛~~~~」 「ウオオオン! ウオオオン!」 「お、俺っちウサギじゃないさぁ! 白ウサギさぁ!」 「アァン!? 眼球に赤テープ巻いてるくせにシャバいこと言ってンじゃねぇぞテメェ!」 「白ウサギの目は赤いものさぁ~!」 「ガンくれてんじゃねぇぞテメやんのかコラッ!」 「漢だったら長ランキメてリーゼントだろがッ!」 「盗んだカブで走り出せやコラッ!」 「アイラブユーが聞こえねぇぞコラッ!」 「ビーバップロースクール読めやコラァッ!」 「バッドボーイズ読めやコラァッ!」 「もっとツッパってこいよォォォォッ!」 「カメ怖いぜえええええええ!」 「たっ助けてさああああああ!」 「白ウサギたちが限界である」 「あ゛~~~~ッ」  ──なんか……なんか、思っていた歪み方と違う……っ!  九蔵は飼い主の命令を大人しく待っている忠実な子犬(ニューイ)にツンツンとつつかれ、抱えた頭をぐねぐねとこねながら救出許可を出す。  こういう時、常識的なツッコミがもう一人欲しい。一個目でこれだなんて手に負えない。  なんせ相方は、戦闘面とコミュニケーション面では頼りになるもののたいていの物事にイイネ! を押す愛しの悪魔様。誰か常識をください。  ツッコミは期待できないが無敵のチート能力で白ウサギたちを救出する様を眺めつつ、切実に願う九蔵であった。

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