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一方その頃。
澄央とビルティは、爽やかな森の中をサクサクと歩いていた。
人間に仮装しているビルティは足音がないので、隣を歩かれても存在感が薄い。そもそも二足歩行に違和感がないのだろうか?
尋ねてみると、トカゲには足があるから慣れれば平気だと言われた。よくわからない。
トカゲに足はあるが、二足歩行ではないと澄央は思う。まあいいか。
そんなわけで、通じているようでいない会話をしつつ、二人のんびり歪みとやらを探していく。
「っても元ネタ不明スからね。今んとこ普通なんスけど。ビルティはこの森に覚えねぇスか?」
「わかんね。遊戯室、たくさん森ある。森が緑は……決定打必要。赤青黄色、緑もいくらかある」
「緑じゃねー森があることに驚きス、って、ん?」
季節が季節ならたいてい森は緑だ。小首を傾げつつ歩いていると、不意にクンと鼻腔をくすぐるいい匂いがした。
ほぼ常時ハラペコの澄央の腹を直撃する、メシの香りだ。
「…………」
「ナス、そっち道ない」
「だがメシはありそうである」
「じゃ、よし」
フラフラと自然そちらにつられる足取り。特に文句を言わず着いてくるビルティ。
ぐきゅるる~っと澄央の腹が鳴った。サクサクサクサクサクサクと驚異の嗅覚を駆使し、ひたすら早足で歩き続ける。
これが釣られずにいられようか。
いられまいて。
ピクニック日和の晴れた森の中というシチュエーションも酷かった。
こんないいお天気に木漏れ日を浴びていると、サンドイッチが恋しくなるに決まっているじゃないか。
タマゴサンドにベーコンレタスサンド。ツナマヨ、テリヤキ、ピザ、ハニーマスタード、フルーツクリーム、イチゴカスタード。
「俺のイチオシはもちろんつぶあんマーガリン。ホイップを添えて」
「? つぶあん、噛みつく」
「いやいや。つぶあん噛まねッス。噛むのは俺ス。美味しくいただく」
「つぶあん噛む。攻撃的。こしあん噛まない。おおらか。な?」
「な? って言われてもそれは俺の知るあんこじゃねース。不思議の国って基本ぶっ飛んでるスね。悪魔の世界より理不尽ス」
「よくわからない」
「俺もスよ。ふーむ……やっぱココさんいねぇとちょこちょこツッコミ不足スね。俺は根っから末っ子だし、こういう時どうすればいいのかわかんねス」
「あぁ……困ってる。ナス」
ビルティは放っておけない男だ。もう少しスムーズに理解してやりたい。
そう思って独り言のつもりでつぶやくと、ビルティが薄ら笑いを浮かべたまま眉を下げた。笑っているのだがしょげているらしい。……ふむ?
今すぐ香しい食の香りの元へ歩み寄りたい気分ではあるが、ハラペコの澄央は歩く速度をのほほんと落とした。
ビルティは首を傾げる。
澄央はトコトコと歩きつつその顔を見つめる。やはり顔がいい男に見上げられると気分がいい。
「ビルティって割とナイーブスか? だったらごめんス」
「や? オレナイーブない。てか、なんでゆっくり? トカゲ走れるぜ」
「いや、傷つけたかと思って」
「え?」
「え?」
思ったまま発言すると、なぜか驚かれた。なぜ。トカゲの考えていることはよくわからない。
思ったことをあまり考えずに口にする自分は、その発言で傷つけたかもしれないならハラペコより会話を優先してしかるべきだと、澄央は思う。単純な話。
そう説明したが、ビルティは更にパチクリとした。だからなぜ。まぁ傷つけていないのならいいのだが。
「……ナス、変違う」
「えめっちゃ話飛ぶやん」
「でもナス、不思議。オレ傷つくは、オレ以外大事違う思う。ハラペコのが大事。なのに謝るした。ナス、不思議」
「そスか? 友達うっかり傷つけたかもってなったら謝るの当たり前ス。メシ食ってる場合じゃねえ。俺からすると、ビルティのほうが不思議ちゃんスけどね」
いつのまにやら、足は止まっていた。メシの匂いに惹かれながらも足を止められるなんて自分でもびっくりだ。
ビルティの話が奇怪でわかりにくいからこそ、理由が知りたくてつい足が止まるのだろう。謎に関西弁も出た。策士トカゲめ。
そんなことを漠然と考えていると、ビルティは不意にクク、と喉を鳴らして笑った。
ちょっとかわいい。
男らしいというより美人系なビルティは澄央の好みではないはずだが、これもイケメンマジックかもしれない。
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