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「オレ傷ついてない。アリス教えてくれた。ナス思ったこと言う。なにも気にしない。無視されないは嫌い違う。オレ嬉しい。クク……嫌い違うは好き思うから。わかる?」
「あー……わかるような、わかんねーような。でも確かに俺はビルティ好きスから、ココさんの言うことは合ってるスね。流石ココさん。さすココ」
「! ナスオレ好き。オレナス好き。両想い。よっしゃー」
「ウェーイ」
「付き合う?」
「いや付き合わねッス」
「尻尾キレそう」
澄央仕込みのよっしゃーのポーズを取っていたビルティは、すぐに両腕を下げてベロンと舌を出した。
不機嫌になったようだ。トカゲは拗ねると尻尾を切ろうとするらしい。
なんて捨て身の不機嫌アピールなのだろう。そう思うとなんだか笑えて、澄央は「わはっ」と声を上げた。
「!」
「俺のウェーイ無視したくせになんで突拍子なく交際宣言? 意味わかんねス。くくっ……マージで愉快スね、ビルティは」
口元に手をあてて笑う。
妙にツボに入ってしまった。
澄央にとって男との真剣交際は一大事なのだが、冗談を言いそうにない男から脈絡なく冗談を言われると予想外過ぎておもしろい。
ビルティはなんというか、ストレートな正直者だと思った。
ニューイとは違う意味で真っ直ぐな気がする。自分の欲望に素直という意味だ。表情とテンションが全く追いついていないが。
自分よりマイペースで自分よりあけっぴろげな相手に、澄央は初めて出会った。
散々クスクスと笑い尽くした澄央は、ポカンとこちらを見つめているトカゲの緑の頭にポンと手を乗せる。
「!!」
「ま、ナイーブじゃねーならいいス。仲いい相手なら性格から考えてなんとなく察せるけど、本来俺は察しがよくねーんで。ビルティのことはまだあんまわかんねス。だから、もっと仲良くするッスよ」
わそわそと髪を揉む。ふわサラの髪は触り心地がいい。
抵抗しないので好き勝手に揉んでいると、ビルティはバッ! と両手を上げた。
よっしゃーのポーズだ。仲良くしてくれるということだろう。たぶん。いいように取っておけ。
無言でせせら笑いながらよっしゃーのポーズを取るトカゲイケメンは、実にシュールである。
「んじゃ行くス。ハラペコス」
「ハラペコ一大事。な?」
「大正解。気分的にはパン系が食いたい。酵母を寄越せ。ビルティはサンドイッチなにが好きスか?」
「ククッ。チキン。オレ鶏肉好き」
「ならテリヤキスね」
「日焼けしたドードー鳥」
「存じ上げねぇけどうまそうス」
トコトコと歩みを再開しつつ、二人はのんびりと雑談に戻った。
ツッコミ不足の珍道中は、意外と平和だ。
内心で九蔵に親指を立ててみせる澄央だが、九蔵がここにいたなら「ツッコミどころしかなかった。が、平和ならもういいです。はい」と虚空を見つめながら下手くそな笑顔で親指を立て返したことだろう。
そうして澄央の嗅覚を頼りにマイペースコンビが歩いていくと、少し開けたところに建物があった。
澄央の目がキュピンと輝く。
ビルティはコテンと首を傾げる。
「お菓子の家スかッ!」
「や? コレ旅立ち屋」
もしくは主に武器屋だ。
滅多にテンションの上下が表に出ないはずが思いっきり声をあげて両腕を空に掲げた澄央に、ビルティが訂正を入れた。
しかしビルティの訂正など、このハラペコ帝王・真木茄 澄央には関係ない。
食いしん坊が一度は夢見るお菓子の家。
衛生面が気になるドリームハウス。
それが目の前にあるというのに、名称など気にしていられようか。──答えは否! 否である! 声を大にして否である!
澄央は心の中で万歳三唱を唱えた。
しかもここはゲームの世界じゃないか。地面と接しない部分や雨風をあまりうけない部分なら、現実的に考えても問題ない。
消費期限さえ切れていなければ喜んでかじろう。いいや、切れていても多少はかじる。
「ってことはこの世界、ヘンゼルくんとグレーテルちゃんの世界ッスね。元ネタ解明。進捗よいです。食います」
「アリスいない。ナス止まらない。オレなにも言うまい。仕方ないね?」
空腹時の澄央はママにしか操れない。
心得ているビルティはアメリカンスタイルでやれやれと肩を竦め、ここにはいない九蔵に仕方ないのだと言い訳をした。多少惚れた欲目もあるが、それは澄央の知らない話である。
真顔のままキラキラと瞳を輝かせる澄央は、意気揚々とお菓子の家に近づく。
確かに〝旅立ち屋〟と表札があった。ノープロブレムだ。知らんぷりしよう。
とりあえず外側は衛生面が心配なので、澄央はコンコンコンとドアをノックする。
「頼もーう!」
「おぎゃんッ!?」
それからコンマでドバンッ! と開いた。
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