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だって仕方がない。
人様の住居を勝手に食らってはいけないものの、もう待てなかった。
澄央にとって九蔵が持たせてくれた重箱はランチであり、デザートは別腹なのである。仕方がない。
お菓子の家の中には長いローブを着たマッチョメンが一人いたが、お腹が減っている澄央の作戦名は、ガンガン行こうぜ! だ。
「通りすがりの真木茄 澄央ス」
「ビルティ。トカゲのビルティ」
「いや、ちょッ!」
「突然スけど、ちょいと家財道具を食わせてほしいス」
「食わせたほうがイイ。ナスハラペコ。怖いものなし。諦めたほうがイイ」
「ちょまッ! あのッ!」
「とてつもなく燃費が悪い上に消化速度鬼なんで、腹が減ってヘロヘロス」
「ヘロヘロ? ナス可哀想。トカゲ、割と強い。でもトカゲ、ナス止められない。ただトカゲ、魔女丸呑みできる。試す?」
「試食で足りる気がしねぇ」
「ちょっと待てぇぇぇぇいッッ!!」
血走った目で両手を突き出すマッチョメンの絶叫に、マイペースコンビはそろってキョトン、とした。
キチンとノックをし挨拶を済ませてから要求をわかりやすく伝えたというのに、なぜこれ以上待たされねばならないのだろう。ビルティだって援護してくれたはずだ。
「いや明らかに脅しだったぜッ!?」
「そんな馬鹿な」
「ククク」
「ほらそっちのトカゲの兄さんは確信犯じゃねぇか! 強面の兄さんはドストレートすぎなのさ! 普通お菓子の家ってのは魔女にナイショで勝手に食わなきゃ始まらないんだい!」
「でもここお菓子の家違う。主に武器屋」
「表札的に旅立ち屋じゃないんスか」
「ここはお菓子の家だぜ────ッ!」
高らかにお菓子の家宣言をしながらマッチョメンがガバッ! とローブの前を開くと、ピチパツの防具に〝へいらっしゃい!〟と歓迎の文字が記されていた。
待たせたり歓迎したり。
どっちなのだろう。
まあどっちでもいいや。そんなことよりさっさとお菓子の家を食わせてほしい。澄央の思考は単純明快だ。
再度デザートプリーズの意思表示をすると、ローブの前を閉めたマッチョメンはがっくりと肩を落とし、気前よく部屋の奥から山盛りのお菓子を持ってきてくれた。
「おぉ……」
「家を食われちゃ敵わねぇからな。ごちそうもあるし、好きなだけ食っていけばいいさ。俺は遊戯室のイカした旅先案内人なんだぜ」
「マッチョメン。愛してる」
「この衣装は魔女なんだぜ!」
「マッジョメン。愛してる」
「たらふく食いな!」
素直に喜び称える澄央に機嫌をよくしたマッチョメン、改め魔女は、もっとたくさん持ってきてやると部屋の奥へ引っ込む。
澄央は目を輝かせてテーブルに着く。
さあどこから食べてやろうか。
「──……ナス」
「ん?」
しかしふと、澄央のそばで大人しく従っていたビルティが、澄央の手をスルリと控えめに掴んだ。急にどうしたのか。
「お菓子食べるする?」
「? 食べるスよ? あ、ビルティも一緒に食べるス。お菓子は美味しいス。一緒に食べるともっと美味しいス」
「……うん。オレ食べるする」
掴まれた手を逆に握り返してやりながら食事に誘うと、ビルティは表情を変えずに頷いた。問題でもあるのだろうか?
一応なにかあったのか聞いてみるが、大丈夫だと返ってきた。
澄央なりに部屋の中に目を配り周囲の気配も探ってみるが、今のところ異常はない。お菓子に毒も入っていない。
首を傾げたものの気にしても仕方がないので、澄央は自分の隣の椅子を引いてビルティを座らせる。
「魔女のお菓子……食べるすると、物語進む。そういう呪い。そういうルールあるけど、ナス食いたい。じゃあ仕方ない思う。うん。ピンチなったら、オレ、黒ウサギみたいにするから。ヘーキ」
「ほらビルティ。アラフォートはガチッス」
「あーん」
「餌付け希望? いッスよ」
そんなわけで、ティータイム。
常識人の九蔵とその九蔵に忠実なニューイがいない今、本能で生きている二人を止める者は、ここにはいないのであった。
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