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しかしウサギはへこたれない。
九蔵の心底呆れた視線を受けてもめげず、ガバッ! と四つ足を大の字に拡げて真っ直ぐに叫ぶ。
「故に、頼もぉぉぉぉうッ! お主らが某の代わりにオオカミを倒し、某をウサギ界の好色一代男にするのじゃッ!」
「この状況でなおも頼もう。なんかもう逆に凄い。俺さんには生まれ変わっても真似できません」
「ふむ。ウサギさんの言い分は、要するに他人の手柄でいいから欲しいということかい?」
「というか村に戻ることよりあわよくばモテたいだけさ~」
「他人の手柄でモテて嬉しいもんですかね?」
「どうだろう。そこは私たちにはわからない事情があるのでは……」
「いやアレはないさぁ。単にスケベ心から安請け合いした結果オオカミにビビッて頼れる通りすがりを待ってただけさぁ。なんならちょっとチビってるさぁ」
「わぁい辛辣ぅ」
胸を張って堂々とアホ宣言。
恥を晒した挙句に真っ向から人任せ。
九蔵とニューイとシッポがチラリとウサギを伺いながら額を集めてヒソヒソと会議を始めると、ウサギはおチャラけたテンションでモチンと指を鳴らす。
辛辣というか当たり前だ。初対面の九蔵たちに全力の他力本願で挑むとは、思っていた以上にこのウサギはポンコツだった。
面の皮の厚さなら初対面で先輩の笑顔を貶したどこぞのエクソシストといい勝負だろう。モテたい願望もそれらしい。
聞いた話は元ネタであるウサギとカメの続編と同じだと思うが、ウサギの動機が思いっきり不埒だ。
これも歪 みなのだろうか?
呆れかえる九蔵だが、ニューイが「けれど九蔵」と切り出しピコンと指を立てる。
「ここが九蔵の言うウサギとカメの続編の世界なら、状況のつじつまが合うぞ」
「つじつま?」
「うむ。私たちが正すべき歪みは、おそらくこのウサギの願いだ。ウサギに勝利し自信をつけたカメさんズが草原を爆走しているのは、正しい姿なのである」
「あー……つまり、オオカミ退治に成功するはずのウサギがオオカミを退治できていないほうが、実は歪みだってことか……」
うむ、と頷くニューイに、九蔵は額を押さえて深い深いため息を吐いた。
確かにニューイの仮説のほうがそれらしい。続編の原作でカメの描写はなかった。
ならばウサギに勝利したカメが自信をもち、その後オールドヤンキー族になっていてもおかしくはない。そもそも続編に登場しないカメさんズは、今回無関係になるだろう。
「…………」
九蔵はチラ、とウサギに視線をやった。
同じウサギだからか、シッポと耳を触れ合わせて挨拶をしている。
おっと、シッポになにか言われて地団駄を踏み始めたぞ。プライドは高そうだ。精神年齢は低そうだ。小学生レベルの悪口を言い合って、あっかんべーと舌を出している。
九蔵は視線をニューイに戻す。
にへらと笑っている。顔がいい。九蔵が目の前にいるだけでハレルヤらしい。絶好調の悪魔様。
「勝てますかね……オオカミに」
「うむ! 私は勝てるのだ!」
「ウサギさんがですよ」
「うむ! いざとなったら説得しよう!」
「ほらもう遠回しに無理って言ってるじゃないですかニューイさん~~〜〜」
「なんとかなるのだよ~!」
「ニューイさん~~~~」
ムギューっと九蔵を抱きしめて楽観的に慰めるニューイの腕の中で、九蔵は先が思いやられるのであった。
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