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その頃、九蔵とニューイの部屋。
借り物のバスローブを着た九蔵は気の休まらない豪華な寝室の天蓋付きベッドのふちに腰かけ、落ち着きなくそわついていた。
澄央とビルティが心配なのである。
明らかにトラブル解決前より澄央にベタ惚れていたビルティ。遊戯室の歪んだ一週間の旅でなにかあったらしい。
澄央もビルティに世話を焼かれて嫌がる素振りはない。九蔵 から見ると、むしろわからないビルティの謎発言を楽しんでいるような気配があった。
ディナータイムでは思わずニューイと二人で顔を見合せ、テーブルの下でひそりとガッツポーズをした次第だ。
しかしビルティの矢継ぎ早な話を読み解けない澄央には、ほとんど愛のアプローチが届かずジョークとされている。
これではあんまり哀れじゃないか。
かくして九蔵とニューイはここぞとばかりに、ささやかなフレンドアシストを発動することにしたわけであった。
「ん、だけども……あ〜……俺余計なお世話してねぇかな~……」
心配の種を集めることにかけてはそうそう右に出る者がいない収集家の九蔵は、声なくうおぉぉぉと唸って生乾きの髪をガシガシと掻きむしる。
人の恋路の手助けなんて初体験だった。お節介だったらどうしよう?
自信がないので、九蔵ムシとまではいかないがサナギにくらいはなりそうだ。
「あれだけ絶妙なフォローをかましておきながら、またルート選択肢なるものを探しているのかい?」
絵画のジャズバンドと今夜のオーディオチョイスを話し合っていたニューイが、ヘラリと笑いながら呑気に歩み寄る。
恋しがって当然だ。せめてゲームのようにルート選択肢があればその中からよさげなものをチョイスするというのに。
「正解への嗅覚には自信があります……!」
「だけど九蔵、ビルティにも真木茄 澄央にも結局キミはバレないようにさり気なくかつ直接恋愛ルートがアリか確認しただろう? それも一切アシスト感を出すことなく。まるで蚊帳の外かのように。迷惑ではない確信を得たはずさ。過剰なくらいだぞ?」
「だって確実じゃねーと怖いし……ニューイさん、世界一しくじれない職業がなんだかご存じですか?」
「? 個々残 九蔵かい?」
「ノン。恋のキューピッド」
「キミがやるそれは伝説のスナイパーの間違いである」
ボスンと九蔵の隣に腰を下ろしながら「万全を期しすぎて最早ただの策略だ!」と嘆くニューイ。好きに言ってくれ。
なんと言われようが、九蔵は結果がどうあれ断固あの二人の恋路が納得のいくものでないと許せない、友情モンペである。
いやまぁ、ビルティは友人にカウントしていいのか悩んでいるが。
別に九蔵は全然? やぶさかでもない。
ズーズィとも友人になれたのだからドゥレドやキューヌも候補に入る。その流れでトカゲも候補にいたりする。確認していないだけで。フレンド申請機能などあればなおよし。
「ふーむ、それはかの有名なゲーム脳という症状だね」
「否定はできない」
名探偵のような顔つきでキュピンと指をさすニューイに、九蔵はコクリと頷いた。
人間素直が一番だ。
人間じゃないが素直ナンバーワンな恋人とともに暮らしているので、絆された。悪くない変化だと思う。
そう。素直が一番。
「ってことで、ニューイさん」
「んっ、お……!?」
おそろいのバスローブをまとう肩をそっと押して──九蔵はドサッ、と柔らかなベッドへニューイの美しい身体を押し倒した。
「く、九蔵?」
「……んー……」
狼狽えた声で名前を呼ばれる。
顔の両わきに手をついて見下ろすと、オロリとよくわかっていない様子でこちらを見上げるニューイのやや赤らんだ顔があった。
微かにシーツを掴む指に力が入る。くそう、イケメンだ。最高のイケメンだ。
一瞬で九蔵の頬に朱が差し、鼓動が足早に速度を上げた。
困惑していても九蔵に不意打ちで押し倒されて抵抗しないところが愛おしい。
なんだよもう、俺のものみたいな顔をして! そう心の中で小さな九蔵がワーキャーと騒ぎ立てる。
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