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 まんまとやられた澄央は舌を伸ばし、ベロリとお返しにビルティの唇を舐めた。 「ンッ……」 「付き合わねぇって言ってる男にあんまサービスしちゃダメスよ、ビルティ。俺、性的にイケメン好きなんスから」 「クク、知ってる」  誘っているのかという語気で試され、ビルティは笑った。もちろん誘っている。  師匠こと悪魔様は「男は据え膳に弱い。前菜はガンガン与えてメインは向こうから食らいつかせるのだよ」とキラキラエフェクトの王子系スマイルで言っていた。  結果は上々だ。わざとだと見せつけるように舌をチロチロ覗かせる。 「はぁ……話通じないって、厄介スね」 「ふっ……うん」  そうすると、澄央は仕方ないなぁとばかりにため息交じりの視線でこちらを伺いながら、節くれだった大きな両手でするりとトカゲの細い腰を掴んだ。  掴まれた箇所からゾクンと肌が粟立つ。  人間に仮装した今、震わせるウロコがない。困ったことに人間の肌はずいぶん感度がいいらしい。 「正直クラッときた」 「ムラムラ?」 「したス。マジな話、超抱きてぇ。据え膳はありがたくいただく食いしん坊な俺なんで。お残ししねス」 「じゃあ付き合うする。そしたら抱いていい。トカゲすごくエロいぜ?」 「でも付き合わねぇスよ。例えどっかのココさんがしれっと引き出した俺の理想を全部マスターしても」 「? なんで? トカゲ幸せするのに」 「いやいや。俺と付き合う最低条件は〝俺が惚れた相手〟スから。諦めて寝ましょ」  トカゲもビルティも好きだが交際の条件はまだ満たしていない。そういう意味の言葉を言いながらスリスリと腰をなでる澄央。欲望に素直な澄央め。  じゃあ好きになってとすぐさま言うが、ダメダメと首を振られる。欲望には素直なくせになぜ折れないのだ。 「じゃあ抱いて。今付き合うしなくていい、あとで付き合おう」 「……危ねぇなぁ……」 「抱いて」 「いッスよ。後悔させてやる」 「っ、……?」  コツンと額を当てられ、澄央の瞳が小さい切れ長の目がスッと細められた。  少し面倒くさそう。  それから呆れとちょっとした甘やかしと、微かに叱る気配を感じる。  猛禽類はトカゲの天敵だ。  それらしい双眸を前にさぁ召し上がれと身体を差し出すなんて、不思議の国の住人らしい愉快な愛し方だろう。  彼の網膜を自分のものと交換すればどれだけ自分が彼に夢中か理解できるだろうになぁ、とビルティは笑う。 「俺に好きは、特別なんス。恋人候補に上がってくれんのはまぁありがたいスけど、逃がしてあげてるうちに逃げてくんないと困るのはそっちスよ。それがわかんねぇならさっさとやめな」 「ふ……、っナス……」  そんなビルティの唇に自分の唇をかすらせながら、澄央はそう言ってニヤリと口角を上げる。 「それとも……軽率に好きって言った責任、ホントにちゃんと取ってくれんの?」 「ん……っ」  なぁと甘えた質問にビルティが答えるより早く、声は舌ごと喰らわれた。

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