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 そんなわけで数日後。  やってきました彼氏の職場。  ドラマやアニメでモデル業を履修している九蔵は、どんな煌びやかで大変な仕事が待っているのかといびられる覚悟を決めてやってきた。  けれど現実はそうでもなく、普通の企業とあまり変わらない。  撮影次第で時間が変動するくらいで、業務も分担されているし休憩時間もちゃんとある。芸能界ではないので当たり前だろう。バイトなので複雑な作業はない。  これなら問題なさそうだ。  研修の時に現場を見学しておおまかな動きを観察し、ズーズィにリアルな声を教えてもらっていたので、雑用ならできる。  事前にもろもろの手続きと研修を終えて業務内容を理解した九蔵は、背筋をピッと伸ばしてニューイの待つ控室のドアをコンコンとノックした。 「失礼しま──」 「今朝ぶりの九蔵〜〜〜〜ッ! 待っていたのだよ待っていたのだよッ!」 「すゔぇッ」  ら、出迎えた。  満面の笑みを浮かべ両腕をガバッ! と広げる、キラキラスマイルのプリンスが。 「あぁまさかキミが現場にやってくる日が来るなんて奇跡的だ! 今朝から待ち遠しすぎてあらゆる物を破壊し社長に何度足の小指を踏まれたか覚えちゃいないが九蔵への愛は忘れていない!」 「ぐうぇぇ」  ドアを開いた瞬間引き寄せられ強烈に抱きしめられた九蔵は、腹部を絞られ顔色青く呻く。  ちょっとは手加減しろ!  勢い余って腹の中の朝ごはんとも今朝ぶりの挨拶をしたいのか!  脳内ではそうニューイの頭をハリセンで引っぱたくが、現実は無常だ。締め上げられているし顔がいい。胸板と腕力の拘束力がプロレス技のそれである。 「ぐっ、にゅういさん、ここ家じゃねえんだからほどほどに、ぐふ、俺の身が、出る……!」 「社長は天才だなっ。今日からしばらく九蔵と一緒に働けると思えば確かにやる気は満ちる。いいところを見せなければね! さぁ九蔵中へ入ってみんなに挨拶をしよう! 九蔵の仕事は私のサポート、マネジメントだろう? みんなに紹介したい!」 「ぐふぉぉぉぉ……!」  愛。それは悪魔も狂う危険なモニャララ。  なすすべもなくぐえぐえと呻く九蔵はしばし目を回し、人生の完結を覚悟した。次回作は凶器が愛情表現というサスペンス作品に決まりだ。のっけから死んでいる。  それから満足するまで熱烈なハグをしたニューイは、ようやく九蔵を解放してくれた。  ゴキゲンのニューイはゼェハァと疲弊する九蔵の肩を抱き、控室の中へさぁ入って入ってとウキウキ招く。  現金な悪魔様だ。  スパダリを目指して上の空になりやる気が喪失気味だと聞いたからこうなっているのに、来たら来たで即時回復とは。 (いやでもモチベキーパーの業務と考えれば結果は上々……か?) 「ならまぁ別にい」 「さっちゃんなおちゃん、おまたせなのだよ! ちょっと初めての恋人の職場訪問に溢れ出る愛が抑えられなくてね……!」 「……………」 「「…………」」  歓迎されて嫌だとは言っていない複雑なハートを抱える九蔵がニューイに引っ張られ控室の中へ入ると、実はずっといたらしいメイクさんと衣装さんらしき女性二人の顔が、そろってポカンとしていた。  ちょっと待て。  さっちゃんなおちゃんがいるなんて聞いていない。全然よくないじゃないかッ!

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