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◇ ◇ ◇
やってきました自慢のカフェ。
そうとは知らず、ニューイにランチは別で食べる旨を連絡した九蔵は、三藤に連れられ社内に併設されたカフェブースに到着した。
オシャレな内装に広い店内。
テーブル席はきちんと区切られている。高層ビルのワンフロアなので眺めがいい。
社員や関係者は格安で食事やドリンクを楽しめるところが素晴らしい。
注文してトレーを受け取りお好きな席で過ごせるスタイルもナイスだ。
オフィスときどきここで作業をすることで、リフレッシュを兼ねているらしい。個室もあると聞くとひきこもりたくなる。
根っからインドアな九蔵でもここなら進んで来たいと思う素敵空間にて、二人はまず腹ごなしだと軽食を注文して席に座った。
──が。
「あんなにメニューが豊富だと選べないのである。たまごサンドにオムレツにオムライスにベーコンエッグマフィンだなんて……」
「だから好きなの好きなだけ頼んで持ち帰ればいいじゃないですか〜。俺のおごりですし」
「私はちゃんとお小遣いを持たせてもらっているのだよ! リョーマのお支払いはチキンだけだというのに、うむむ……!」
「稼いでますから」
ものの十分ほどでやってきましたニューイ・アンド・リョーマ。なんでやねん。
思わず関西人になってしまうほどびっくらこいて頭を抱えた九蔵である。
せっかくおいそれと話せない凌馬情報を聞くためにハイパーイケメン彼氏とのランチを蹴ってカントクとしけこんでいるというのに、その情報源と彼氏がセットで入店だなんて笑えないじゃないか。
しかもなんだ?
スマートにお会計を済ませる凌馬の胸キュン行動に、支払い速度で負けたと悔しがるアンポンタンニューイのアンサー。
絶望的ニブチンな悪魔の反応にすら「自分金持ってますんで」とばかりにウインクするド腐れ遺伝子イケメンアイドル。
なんかもういろいろ衝撃な上になにかと絶望的で、九蔵は一瞬真顔になった。
「あちゃ〜……不運なヤツめ……」
「人を運気を憐れむのはやめろください」
二人してテーブルに伏せながら、九蔵は三藤をジト目で睨む。
なにかとタイミングが悪い人生でも信じたくない。
幸い九蔵たちは入り口真横の席。
カウンターでランチを受け取り真っ直ぐ進んでいったニューイたちはこちらに気づかず、そう遠くない席につつがなく落ち着いた。
揃ってタハーっと安堵の息を吐く。
一瞬魂の匂いでバレるかとも思ったが、人間生活を目指すニューイは日常でいちいち九蔵の匂いを嗅がないので大丈夫だろう。……嗅がないはずだ。たぶん。
「流石に焦った」
「あーっぶね。リョーマあいついつもマネの用意したメシ楽屋で食うくせに今日に限ってこっちくんのかよ」
「俺が断ったからニューイがぼっちなんで誘ったんじゃないですかね?」
「じゃあ結局九蔵くんのせいじゃねーの? ほら、不運な体質なんだろ」
「そんな体質認めない」
伏せの姿勢のままコソコソと話す。
店内はそれなりに賑わっているものの、意識して聞き取る声を選べば話も聞こえてしまうレベルだ。気をつけねば。
「……ん? 逆に言うとあっちの声、聞こうと思えば聞けるよな?」
「…………」
「くーにゃん、盗み聞き偵察レリゴ?」
──わかっていて言わなかったというのにこのダメおっさんは!
九蔵は「君のような勘のいいおっさんは嫌いだよ」と、口の中で唱えた。
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