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 なぜかキレイな笑顔のまま首を傾げてしまった凌馬に、ニューイはシカゴポリスのような態度で腕を組んだ。  こちらはとても真剣に言ったのだぞ?  凌馬はゆっくりと傾げた首を元に戻して、頭に手を当てあーと三秒。  それから腰に手を当て俯き、おーと三秒。そーっと顔を上げる。 「えーっと、ニューイさん。もう一回」 「いいとも。初めに並べた情報から、私は九蔵がキミを好きになってしまったんじゃないか、と推理したのである」 「ごめん。詳しく」 「んっ?」  わかったような顔で会話していた凌馬が片手を上げて説明を求めるので、ニューイはあれれ〜? と驚いた。  友人の恋人に好かれたので突き放し、ニューイには言えなかったのではないか?  不思議に思うが、それも無理ないと考え直した。  好かれ慣れている凌馬は九蔵に気にかけられていることには気づいていなかった可能性もある。鈍感な凌馬である。  うんうん頷くニューイは、またしてもピコンと指を立て説明を始める。 「いや、初めは私も気がつかなかったのだよ? というか〝九蔵はキミのファンだから会えれば喜ぶだろうな〜〟としか考えていなかったのだ。浅はかなものでね」 「うんうん。初日ですね」 「だがふと気がついた。〝待てよ? イケメンが好きな九蔵が大好きなリョーマに会ってしまうと、リョーマを好きになるかもしれないのでは?〟と」 「ほー。男で初期の俺からファンとか珍しいと思ったらイケメンが好きなのな。でもそうはならんでしょう!」 「それで控え室でさり気なくリョーマのことを聞いてみたのだが、九蔵はなんと! リョーマが私と仲が良くてもヤキモチもモヤモヤも特にないのだ、と! 追い出すなんてとんでもない、と!」 「それは余裕ぶった結果自分の首を絞める九蔵の自殺シーンですよね?」 「九蔵はリョーマにいてほしがったのだっ。ヤキモチを妬かないのも、私への興味よりリョーマへの興味が強くて気にならないのかと……っ」 「ただの自害ッス」 「はぁ……イケメンは直視できない九蔵が、いつもいつもチラチラとリョーマばかり気にしている。おかしい。九蔵は浮気なんてしない。つまり無自覚にリョーマが気になっているんじゃないかと思った私は、再度尋ねたのだ」 「結果はもちろん……?」 「お手上げさ。リョーマとは何事もない、と。ならなぜあの態度を!? 挙句にランチのキャンセルは決定打である!」 「オーマイガッ!」 「そうだろうとも!」  額に手を当て盛大に嘆く凌馬に、ニューイはうんうんと激しく同意した。意味は通じていないが気持ちは同じである。  九蔵はきっと真のイケメンを前にして、ポンコツニューイへの興味をちこーっと薄れさせてしまったのだ。  嫌われている気はしない。  まだ好いてくれている自信もある。  しかし、だがしかし。  無自覚に他の人に興味を持ち気がついたら恋人を好きではなくなっていた、なんて展開はざらにある。  三角関係モノなんてそうだ。  もしくは浮気やら不倫やら、昼ドラを見ていた頃よくあった。  元カレやら元旦那さんやらを最近イマイチだな〜と思っていたヒロインが、新しく出会ったタイプの違うイケメンに惹かれる。  とすると、テレビの中でしか見なかったイケメンが手の届く距離にいる今の状況──おあつらえ向きじゃないか!  そうして間違いないと唸るニューイの肩を、頭を抱えていた凌馬が顔を上げ、ガシッ! と掴む。 「へっ?」 「わかりましたよ、ニューイさん。この際ちょーっとお話しましょう」 「? というと?」 「なんでも好きなもの食べさせてあげる」  ニコーっとアイドルスマイルにウインクまでオプションした凌馬に、ニッコリ頷くニューイであった。

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