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──いっぽうその頃。
ポコポコ、とスマホが鳴いた。
お喋りしていたニューイがスマホを開いてみると、愛する恋人からメッセージが二件。
『今日監督さんと食う』
『ニューイも好きにしてて』
いつも通りの九蔵のメッセージだ。
交際一年足らずの恋人からとは思えない素っ気ない言い方だが、悪気はない。
ニューイは口元をへの字に曲げ、了解のスタンプをポコンと送る。
しかしそれで終わるのが味気ないので、なにかメッセージを送ろうとちまちま打つ。
打つが、消す。
うーんと悩んで打ち込み、やはり消す。
行ってらっしゃい?
戻ってきたら私と?
うーんうーん。
どれも下心があるような気がしたので、ニューイはメッセージを送らずにスマホをポケットへしまった。
「九蔵?」
その通り。
すぐそばにいた凌馬に声をかけられ、手ぶらで頭をあげる。眉は下がる。
「ランチを断られてしまったのである」
「ありゃりゃ」
ニューイが落胆すると、凌馬はポンと肩を叩いて慰めてくれた。
いい友人ができてニューイは幸せだ。
やはり人間とは相性がいい。
ニューイがへにょりと眉を下げると、凌馬は「どうかしました?」と笑顔でこちらを見つめる。
その笑顔にはほれほれ言って楽になるならウェルカムだぞ〜というオーラがあった。
察しがいい凌馬はニューイが悩んでいるとわかっているのに、こうしてあえて笑って待ってくれる。
「ん?」
小首を傾げてニコリと笑う。
無理に聞き出すことも言いたくないならいいと流すこともなく、相手が話し出すまで待つのだ。凌馬がいい男たる所以だろう。
だから、ちゃんと言わねば。
ニューイはゴホンと咳払いをする。
そして居住まいを正し、キリッと真剣な面差しで凌馬を見つめる。
「よし。自重していたが我慢できないので口出しするぞ」
「お? よしきた」
「近ごろ私が気がかりなのは、キミと九蔵のことについてなのだよ」
「……お〜……」
ニューイが話を切り出すと、凌馬は肩をキュッと竦めて苦笑いした。
思い当たるフシがあったのだろう。
やはりそうだったか。思った通りだ。なにも言われなくてもある程度は予想できる。
気持ち肩の丸くなるニューイに、凌馬はあちゃ〜と申し訳なさそうな顔をする。
「参ったな。あんま態度に出してなかったんスけど、どこで気がついたんですか?」
「最初は気がつかなかったぞ? だけど、九蔵がキミをとても意識していること。私のいない時によく二人で話をしていること。そしてその内容をキミたちが私に言わないこと。キミたち二人が私に言い難いことを考えると、一つの答えを得たのである」
「なるほど……」
納得する凌馬に、ニューイは真剣な表情を保って凌馬の整った顔を真っ直ぐ見据え、ピコピコと指を振った。
「前提として、九蔵は私の大切な恋人だ。そしてキミは、私の大切な友人だ」
「はい」
「私とてここ最近、仕事をきちんとすべしと気を引き締めている。社長の独断とはいえ恋人の九蔵をサポート役に巻き込んでしまった上に、これ以上私情を持ち込む気はさらさらなかった。しかし……わかるだろう?」
「……うん。わかりますよ」
凌馬はニヘ、と口元を緩める。
眉が八の字に下がっていた。ニューイが口出ししてしまうような状況だったとわかっているようだ。
ニューイに責める気はない。
それもわかっている凌馬は、ため息を吐く。
「職場で恋愛ともなると問題になりますが、一般人はね。メディアに名前も出されないし、そこらへんが緩くなるでしょ?」
「うむ。変なルールだが」
「はは、確かに。ま、ちーと線引きしちゃったんスよ。かるーく突き放したつもり。九蔵はニューイさんの恋人なのに、なにも言わなくてすいません」
「うむぅ……うむ。平気だ。リョーマは言いにくかったと思うである」
「おっふ、お咎めなし。流石ニューイさんだわ……けど九蔵はあぁ見えて結構言う男っつか強かだからな〜」
「ゴホン。それはさておき、つまり私が言いたいことは、だ」
「はい」
凌馬は背筋を伸ばし深く頷いた。
覚悟はできている。
そう言いたげな凌馬を見据えるニューイは、ピコピコと振っていた指を真剣な表情でグッと握る。
「〝九蔵はキミが恋愛的な意味で気になっているのかもしれない〟と、いうことだ」
「はい?」
いや、はい? じゃなくて。
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