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そうだ。そうなのだ。
ニューイが恋人はスパダリがいいと言うなら、九蔵はニューイに好かれるためにスパダリとやらを目指す。そのくらいニューイを理由に頑張れる。
しかし凌馬はどうだ?
スーパーアイドルを本気でめざした結果、たまたまニューイの好きなスパダリスペックになっただけだろう?
だから、ニューイに特化した九蔵は、当たり前に面白くなかった。
羨まけしからんことこの上ない。
ニューイを愛しニューイに愛されるために今の九蔵ができたのに、片手間にニューイと仲良くなれる凌馬にハンカチを噛み締めてキィーッ! と言いたくなる。
確かに、今の九蔵の立場は凌馬とニューイの本気の仕事へ、愛だの恋だのを理由に土足で上がり込んで得た立場だ。
しかし、だがしかし。
愛だの恋だのの本気の現場に、仕事やら友情やらを理由に土足で上がり込んでいるのは凌馬である。
お互い様とは、こういうこと。
故に文句は言えない。
言えないがヤキモキする。
こちらに弁えろと釘を刺すなら、こちらにも刺させていただきたい。
──俺が自分からニューイに抱きつくまでどれだけかかったと思ってんだちくしょう軽率に推してんじゃねぇぞ!
──こちとら魂捧げてんじゃいッ!
「なぜなら俺さんはとても頑張ってお付き合いを始めました故に……恋人の俺さんにはヤキモチを妬く権利がありにけり……」
「目が闇堕ちしてら」
拳を握って小声でボソボソ宣言する九蔵に、三藤はガシガシと後頭部をかいた。
それから組んでいた腕をそっと外し、腰に手を当て「なぁ九蔵きゅん」とピコンと指を立てる。きゅんってなんだ。
「凌馬は確かに余裕たっぷりで月9の主役もリアルに張ってたようなイケメンだ。顔も体も頭も話術もなにかと強いさ」
「だからなんですか」
「ちな家事全般できる。料理がうまい。ファッションセンスもあれば人徳もある。目がいいから投資の才能もあった」
「オーバーキルですか」
「で、も、なっ」
「おわっ」
のらりくらりと読めない男め!
外したはずの腕で再度肩を組まれ、九蔵は予想外の悲鳴をあげた。
口元をへの字に曲げて三藤に視線を滑らせると、ニマーとニヤケた髭が見える。
「どんな人間もすべからく欲深くて、蓋を開けねぇとどんな人間かはわからねんだよ。あぁ見えて凌馬は、クソガキなんだ」
「はっ? どこがですか……?」
「お? 気になる? 気になっちまう? おじさんとランチ行っちまう?」
「…………」
九蔵はニヤケ面から視線をはずし、現場へそーっとひと回した。
メイクを落とし着替えを終えて次に備えるニューイと凌馬が、二人で顔を合わせてスマホを覗き込んでいる。
ところどころ聞こえるワード的にランチのメニューを話し合っているのだろう。
……ニューイはいつも九蔵と食べているのに、今日は凌馬と食べるのだろうか。
九蔵はギギィと首の角度を戻し、三藤にそっと親指を立てる。
「支払いは俺に任せろ」
「わかってんじゃねーの」
教えてやるから奢ってくれよ? という意味を込めたランチの提案だと読み取る九蔵に、三藤はご機嫌な拍手を送った。
「…………」
──スタジオの外へ歩き出す二人の背中を見つめる視線には、気づかないまま。
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