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「ま、心配すんなって。凌馬は手強いけど、お前さんの恋のライバルとかじゃねぇ。手強いけどネ」 「……だとしてもその、相手ニューイだし、そういう方面の心配はあんまり……」 「おろーん? じゃあなんで凌馬のこと目の敵にしてんだ?」 「!? 目の敵にはしてませんてっ」 「はい白状。上司命令ね」 「っ、なんでそう、はぁぁぁ……っ」  榊然り、三藤然り。  自分の上司はみんなどうしてこう人の悩みごとを好奇心で聞き出そうとするのかと、九蔵は渋い顔で数秒唸る。 「…………凌馬さんって凄いでしょう」  逃れられる気がしないので、九蔵はやさぐれ気味にコソコソと声を潜めて話した。 「顔が良くて、スタイル良くて、仕事もできて、誰とでも親しくなれて、笑顔がうまい。ひょうひょうとしてて余裕がある。地位も名誉も、社会的地位ってのがある。たぶん金もある」 「ほーう。もちろんわかってるよな」 「わかってますよ。だいたいそれは彼が死ぬほど努力して勝ち取ったものです。俺がゲームして寝てる間に」 「そういうこと」  さっくり認めると、三藤はわかってるならなんで? とばかりに首を傾げる。  九蔵は少し視線を逸らして、口元をもごつかせた。 「凌馬さんは……ダーリンじゃねーけど、スーパーなんですよね。スパダリ」 「スパダリってなによ」 「会社のCEOとか石油王とかスーパーアイドルとか俳優とかなんか凄い人かと。顔と金と地位と名誉と大人の余裕があって基本全肯定の溺愛男がたぶんそう。知らんけど」 「なにそれ曖昧」 「俺の専攻プリンス系なんで。とにかくそのスパダリにニューイは憧れてて、凌馬さんはなれる人で、なれるスペックってのがあるわけで……だからつまりそういうことです。わかってください」 「いやわっかんねーなー。わっかんねぇ。スパダリはもういいけど、なに? それだと凌馬に劣等感があるってことで、ヤキモチよりシリアスーな泣きべそ案件になるんじゃねーの?」 「や、そういうのお腹いっぱい」 「んじゃなんでよ?」 「なんでって、そりゃ……」  九蔵はほのかに頬を桃色に染め、フイと三藤から顔を逸らす。  確かに三藤の疑問はもっともだ。  自分と真逆のステキな人が恋人の近くにいるから不安だとか、それに比べて自分はなんだと卑屈になるだとか、そういう反応がノーマルな流れだろう。  しかし九蔵はそうじゃない。  自己肯定感の低い九蔵本人としては、基本人が自分よりできる人なのは当たり前。  それに比べて?  いや比べなくても知っている。日常茶飯事。今更いちいち気にするわけない。  ではそうじゃない九蔵は、なぜ凌馬とニューイが仲良しだとヤキモチを妬くのかと言うと、だ。  努力して努力して、九蔵が尊敬し、ニューイの憧れるスパダリスペックを手に入れていた凌馬の、一方その頃。 「……ニューイを愛する努力だけは、俺のほうが絶対めちゃくちゃしたっつの」  九蔵は腕を組み、フンッと鼻を鳴らした。

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