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◇ ◇ ◇
「で、一人だけ空気も読まず実在しないスパダリとかいう概念と戦ってたニューイさんのほうは、結局単独事故ってことでいいんですかね?」
「九蔵、この話をまだ引きずるのかい……? というか今するのかい……!?」
アルバイト最終日を無事終了した夜。
うちでも職場でも一緒にいるというこってり生活も終わった九蔵とニューイは、胃もたれ収めにお食事がてらコトを致していたのだが、その真っ最中に九蔵が冒頭の疑問をぶん投げたのだ。
なお二戦目なので余裕がある。
むしろ自分に余裕のある二戦目まで温めていた。策士な九蔵である。
おかげで激しめの一戦目からイチャイチャと絡みながらの二戦目にウキウキニコニコしていたニューイは、一気に表情筋をヒクヒクと引きつらせた。
そりゃあまぁ、ガッツリ入っているのでそうなるだろう。
文句ならいつぞや餌やり中にスマホが欲しいと鳴いた自分の所業を省みてから言ってくれ。ぐぅの音もでますまい。
「なんつーか……イチャイチャついでに、ちょっと不安解消的なアレ。です」
「ぐふっ」
ベッドで仰向けの九蔵は、九蔵の両腿を引き寄せて抱いていたニューイの腰をガシッとホールドした。
「くそう、これじゃあ逃げられないのだ……逃げたくもない……九蔵の足は最強の拘束具なのだよ……うぅ……」
「大真面目になに言ってんですか……」
「私はいつも九蔵に大真面目である。ふざけた記憶は毛頭ない!」
「うんごめん今のは俺が悪かった。俺さんも逃がす気ねぇもんで、ちょっとサイドニューイさんの話もちゃんと聞きてぇです。はい」
「わかってくれればいいのだよ。……そしてその話だが、私の恥ずかしい告白ならカントクと一緒に聞いていただろう? 改めて二人きりの真っ最中にほじくり返すなんて、悪魔のプライドは木っ端微塵さ」
晴れがましく仄かに頬を染めてムスーっと唇をとがらせるニューイ。
困惑と羞恥と葛藤が滲んでいる。
歯のぶっ飛ぶような甘いセリフなら母国語の如くペラペラなくせに、この悪魔様は自分が努力している姿を晒すと、途端に恥ずかしがって格好つけたがった。
そこに関してだけはウルトラシャイボーイの九蔵よりも口が重いのだ。
わかる気もするが、概ねわからない。
九蔵は見た目や中身のダメさを晒すほうが恥ずかしい至ってノーマルな男である。
九蔵は腰に回した足を動かし、ニューイの体をかかとでスリスリした。
直後、笑顔がひきつるニューイ。
なんだ。くすぐったいのか。
「くっ……最強で最高の拘束……!」
「ニューイ、トップアイドルが憧れるくらい中身も見た目もスーパーなのに変なとこ気にすんだもんなぁ……だからこそどんな気持ちだったのか、よく知りたいって、思うんだけどさ」
「う、うむぅ……」
ニヒ、と下手な笑みで誘ってみる。
九蔵の憧れを全部持っているニューイの気にするところは、九蔵には理解できない。取るにたらないと思う。
だけどそうするとニューイの気持ちが宙ぶらりんだから、どうしてそう思うのかを、なるべく本人から深く聞きたい。
だって理解したいから。
九蔵はニューイの気持ちをぶらぶらさせたくなかった。
凌馬との話を盗み聞きしたランチタイムでは、凌馬の本性バーストがクセ強すぎて触れなかっただけ。
あの時ニューイが架空のスパダリに憧れる理由が〝不安〟からだと彼の声で聞いた九蔵は、無性にニューイを抱きしめて無言でワシャワシャとなでたくなったわけだ。
人はそれを愛しいと言う。
限界オタクはしんどいと言う。
語彙力? ドブに捨てた。ツッコミは許さん。うちの推しがかわいい!
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