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月がてっぺんに昇る夜のアパートでヒソヒソとなにをやっているのやら。
そうは思うが、やめる気にはならず。
お互いに唇を尖らせて赤らんだ頬を反らし、モニュモニュと言い訳。
だけど手は伸ばして自分の腹の上にあるニューイの手に指をツンと当てると、ニューイの中指と薬指が九蔵の人差し指を捕まえるのだ。
だから視線を戻して、じっと見つめ合う。
「「……わはっ!」」
それから同時に吹き出して、片手の指をしっかりと絡めながら笑った。
「ははっ、もう、んで今、あぁもう」
「だって仕方ないじゃないか、ふふ。片想いの頃はあんなに必死に、くくっ、シリアスムードで私は、あははっ」
「俺だって文句一つあんな真剣に悩んでたのに、あ〜っ今なんかあれこれ言いすぎて階段スキップで登ってるっ」
「私もであるっ。同じ好かれたいでも両思いならプライドで、格好つけたがって」
「そう、悲劇ってよりケンカばっか、意地の張り合いになってきてさ」
「なぜなら出会ったときから同棲していたからね!」
「ばっか職場も一緒だったよ今日まで!」
「「あははははっ!」」
素っ裸で片手をつなぎ、惰性で繋がったまま笑う。
なお一応真っ最中。
信じられない? 現実だ。思いっきり入っている。とんでもカップルだ。
ニューイが笑うたびに中に振動が伝わって少し感じるし、九蔵が笑うたびに腹筋が波打って内部を締めつけニューイは多少気持ちいいだろう。
にしてはやはり色気皆無のベッドシーンである。それすら愉快だった。
ちょっともう、ああ、なんだ、幸せか、そうかそうか。うひひ。
──あーあー馬鹿らしいなぁ!
そう笑ってひたすらそばにいたい。そういう気分になった。いい意味だ。
ロマンチックの欠片もなくても、確かに自分はお姫様で、この悪魔が王子様。
童話になりそこなったラブストーリー。レビューは酷評。観客のため息。全米が開始五秒で寝る。されど監督の最高傑作。
そういう恋をした。
ずっとそういう恋が続いていく。
前世も、今世も──来世も。
「俺、お前のキスが好き」
「知っているのだ。私はキミが好き」
「知ってる。し、俺さんはお前さんが好き。です」
「うむ! ……むへへ」
散々笑ったあと、どちらともなく握った手を引き寄せて額をコツンとあてがった。
首に腕を回して茶化した口角で照れを誤魔化しつつ意地悪く笑うと、元気よく頷いたもののすぐにデレ〜っと破顔したニューイがスリスリと額を擦りつけて甘える。
「なら、そろそろちゃんと色気を出さないかい? 九蔵はいつも私の愛を人質に私の内側を引き出すが……すーぱーだーりんにケンカを売る程度には私ががきんちょだと知っているだろう? 続きを諦めてはいないぞ」
「ぅへあ」
言い終わるとともに唇がチュッと一瞬塞がれ、打って変わって奥深くまで入ったモノで行き止まりをゴツ、とつつかれた。
打って変わりすぎだ。
いやまぁ言ってることはわかるが。
行為中にじゃれたかと思えばサクッと行為に戻るなんて脈絡がない。
ちなみに嫌ではなかった。その逆である。秘密である。
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