430 / 459
430
おろしているのか少し長めの前髪と夜なのにサングラスでパーカーを被っているためよく顔が見えず、定かでない。
しかし立ち姿がどえらい美しいのだ。自然に立っているだけなのにオーラがある。
足が長くて顔が小さい。
シャンとした背筋。
手の置き場すら絶妙な脱力感じゃないか。バランス最高。こりゃたまらん。
(……ん?)
そうして目視コンマで狩人の目になり暫定イケメンを凝視した九蔵は、ふと脳内に小さめの疑問符を浮かべた。
チラ見の先のイケメンが、なにやらそわそわと落ち着かない様子で券売機をいじりながらチラチラと視線をこちらにやっている。
見るからに不審者というわけではないが、様子はおかしい。
券売機の使い方がわからないのだろうか? と気にかけているうち、イケメンはそっと牛丼の並を発券した。
不思議には思うが、とりあえず牛丼の並をさっと作っておく。
食券を越後が受け取ればすぐに提供できるようにだ。
(……んん?)
九蔵が牛丼を作り終えてフロアを見ると、どういうわけかイケメンはカウンターのほうへ一歩一歩とやってきていた。
人の少ないこの時間帯。
ガラガラの店内でわざわざズーズィがもう席についているカウンター席の隣を選ぶ意味はない。
コミュ障の九蔵的にはあり得ない暴挙である。他人と真隣なんて絶対嫌だ。
流石に不信感が募り、九蔵はその客を注意して観察した。
「え〜……どこに座ろうかなぁ〜……」
「…………」
謎の独り言。やはり顔は見えない。しかしイケメンオーラは本物だ。
なのに不審者なのか? 嘆かわしい。
悪めのイケメンとて最の高というものだがリアルではご遠慮願いたい。いややっぱり眺めてはいたい割とじっくりと。
ほんの一瞬の考察。
キョロキョロしていたイケメン客はカウンターへたどりつき──なにがどうしてか、ズーズィの隣で立ち止まった。
「っ?」
「お、お〜奇遇ですね〜。まさかこんなところで社長と会うなんて〜」
「うん? あぁ、君か」
奇妙な行動を訝る九蔵の前で、イケメンがなにやらかすかに上ずった声でズーズィに話しかける。
(…………。ふむ)
よく聞くと聞き覚えのある声である。ふむふむ。しかも桜庭ズーズィがにこやかに対応している。知り合いである。なるほど。
イケメンがスムーズに着席する。
越後がお茶を置いて食券を受け取り、配膳済みの牛丼を提供する。
それを受け取るイケメン。ああうん、なるほどなるほど。
「…………」
全てを悟った九蔵は、そっ……とイケメンへの警戒を解いた。
そしてみるみるうちにジト目から光を消して、闇の深い目でパーカーを脱いだイケメンを(若干焦点をズラしつつ)見つめる。
サングラスをしたままなので性癖が負けずに済むものの、それは客人が「どういうことだ!」と視線で問い詰めずにはいられないようなスペシャルなイケメンだったからだ。
そう。
具体的には、メディアでよく見るトップでアイドルなグループのリーダー。
もっと言うとモデルで実業家で完璧主義者で二面性がありズル賢く、シャイニング悪魔のポンコツ光魔法にあてられると秒でキレ散らかす毒舌ひねくれおガキ様。
「はは、こんな微妙な時間にハラヘリってことは仕事終わりだな? 凌馬」
「大正解です!」
ニカッと爽やかスマイルでお茶目なポーズをキメるスーパーイケメン──棗 凌馬、その人であった。ジーザスッ!
「? 知り合いでござるか?」
「神が絶対に与えてはいけない人に最高の顔面を与えた結果があれ」
「悪魔でござるか?」
「悪魔のような人間ですね」
「アァァァメンッ!」
コソコソと小声で尋ねられて答えると、殺意マシマシで退魔する越後。
残念ながら人間だ。
実にひねくれた。というか何用ですかこのイケメンヤロウ。
ともだちにシェアしよう!