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ピンポーン。
「? ちょっと出てくる」
「うむ」
軽いインターホンの音に引き寄せられ、九蔵はちょいと手を拭き玄関に向かった。
宅配便は頼んでいないしご近所付き合いはニューイ任せ。
いったい誰がどんな用なのやら、と考えながら、九蔵はガチャンとカギを開けて冷えた鉄のドアを開く。
「は──」
「アリス匿ってっ!」
「いぉおっ!?」
「くくく九蔵っ!?」
そして開いた瞬間──擬態の解けた百パーセント人外のトカゲさんが、九蔵の胸にズバコンッ! とダイブした。
怪力トカゲの全力ダイブ。
それすなわち攻撃。
ヒョロ長ガリ蔵のフリーターがものの見事にひっくり返りそうになり背後で悪魔がガーン! と骸骨スタイルに戻りかけているが、ハグが強すぎて宙に浮き、倒れずに済んだ。よかった。いやよくない!
「かっ匿うってなにから……っ?」
「ハラペコ怪獣」
「はっ?」
「ナスキレるした。オレ悪いない」
「はっ!?」
「ビィィィルゥゥゥティィィィィ」
「来た!」
「あ〜〜〜〜っ」
ホールドされてビルティの腕の中でバタバタもがいていた九蔵は、ビルティの背後から響くドスの利いた重低音にキュピーンと状況を理解して頭を抱えた。
なるほど。わかったぞ。
甘えたワガママ戦争の勃発だな?
足音が近づくと同時に薄ら笑いのまま慌てふためき、察した九蔵を抱いたままニョロニョロ室内に逃げ込むビルティ。
それを追いかけ玄関からズッシズッシと侵入する巨神兵。
さらに逃げるビルティ。
トラブルに巻き込まれ脱力する九蔵を盾にし、九蔵をホールドされてカラコロと頭蓋を鳴らし硬直するニューイをその隣に配備し、完璧な要塞を築く。友人で防御を固めるな。トカゲのシッポがチラ見えだぞ。
ズシン、と怪獣があぐらをかいた。
見事なへの字口である。
隣のニューイを視線で伺う。
ぴとっとくっつかれた。骸骨頭が半べそだ。なんでだ。お前さんはなにもされてないでしょうが。
やはり、常識人は自分オンリー。
九蔵は額に手を当て、はぁ……と深めのため息を吐く。
「ナスくん、ビルティくん」
「なんスかココさん。俺は今からトカゲを丸焼きにして朝メシがてらかじるんス。わかったらそこをどけるか朝メシのご相伴を要求するス。ハラペコス」
「アリス、アリス。オレ悪いないぜ? ナスいくない。トカゲかじるいくない。な? ナス焼いて食べよう?」
「ニューイ盟友として頼むんスけどニューイんちのオーブンガンダで灼熱に予熱してきてほしいスちょっと殺意が」
『へむっ? おあ、わか、わかっ』
「いやわかんないからさっさと説明しろくださいさもないと今後全てのメシをアレンジなしの嫌いなものづくしにすんぞお残しは許しませんぜコノヤロウ」
『「「はいっ!」」』
あぁうん。ニューイさんは大丈夫ですよ。そもそも嫌いな食べ物ありませんしね。
悪魔姿のまま精神年齢キッズたちとともにシャンと背筋を伸ばす自分の恋人の肩は、ポンと慰めた九蔵であった。
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