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第2話 始まり
最後に覚えてるのは、凄い勢いで近付いてくる光だった。
ハッと気が付くと、俺は見知らぬ場所に居た。
周りを見渡すと古びた小屋みたいなところ。
木の板に破れた布が被せてあるだけのベッドらしきもの。
木をくり貫いただけの食器らしきもの。
そこは微妙に生活感があった。
ここはどこだ?
俺はどうしてこんなところに?
状況が分からなくて少しパニックになる。
ふと視界に映ったのはぷくっりとした小さい手。
その手を目の前に持ってきて握ったり開いたりを繰り返した。
思い通りに動くその小さな手に違和感を覚えた。
俺は慌てて周りを見渡す。
小屋の角にガラスの破片を見つけて覗き込んだ。
ガラスの破片に映ったのは、見たことのない少年の顔だった。
髪はボサボサでかなり汚れてるけど、黒髪に緑の瞳の整った顔立ち。
身なりを整えれば、かなりの美少年になるんじゃないかと思った。
俺はそっと自分の頬に触れてみる。
信じられなかった。
覗き込んでるのは俺だけど、ガラスに映ってるのは全く違う人物で、頬に触れるとガラスの中の少年も同じ動きをする。
頬にも手にも触れた感触がしっかり感じられて、俺は今、確実に"自分自身"に触れているんだと実感した。
……どういう事だ?もしかして俺、子供になってる!?
俺は風峰郁十って名前の日本人で、25歳の会社員だった筈………
どうしてこんな子供の姿に?それにここはどこなんだ?
こんな場所俺は知らない。分からない、一体何がどうなってるんだ。
もう何がなんだか分からなくてパニックになっていると、小屋の扉が大きな音を発てて開けられた。
俺はその音に思わず体が揺れた。
恐る恐る見ると、見知らぬ青年が立っていた。
……誰だ?
「ディラント!!」
青年は俺を見るなりそう叫んで近付いてきた。
ディラント?誰のこと……
そう思った瞬間、突然頭痛に襲われた。
俺は頭を押さえて踞る。
………なんだ…急に頭が……
次の瞬間、頭の中に映像が流れ込んできた。
次から次に頭の中に映像が浮かぶ。
………これは
映像が浮かばなくなった頃には、頭痛も引いていた。
……そうか、『ディラント』はこの少年の名前。頭の中に浮かんだ映像はこの少年の記憶だ。
教えてくれる人が居ないから定かじゃないけど、歳は多分7歳くらい。
今目の前に居るこの男はディラントの父親だ。
そして、ディラントはこの男に日常的に暴力を受けていた。
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