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勇者と従者の、ある朝の会話【SSS】
朝日の差し込む窓のカーテンを、ロッソが長い髪を揺らしながら順に開けてゆく。
輝く朝日に照らされて、目を細める黒髪の従者。
人より少し長い睫毛が、朝日を遮り薄っすらと影を落とす。
その横顔を見ながら、リンデルは呟いた。
「ロッソは、綺麗だな」
どう反応をしたら良いのか分からないロッソが、聞こえなかったフリをして次のカーテンへと手を伸ばす。
「それに……」
と、続けるリンデルの声。
「ちょっと、可愛いな」
「はい?」
ロッソは思わず聞き返した。
可愛げがないと言われた事ならたくさんある。
だが、可愛いと言われたのは、いつぶりだろうか。
幼い頃には可愛い可愛いと言われていた日々もあったはずだが、もうそれは思い出せそうにない。
「あ、いや、他意はないんだ。そう思っただけで……」
ふわりと、花のように微笑む金色の髪の青年。
少し照れたのか、頬がほのかに染まっているが、視線はまっすぐにロッソを見ていた。
ロッソは顔色こそ変えないままだったが、リンデルの愛らしい姿に、ぽろりと本音が溢れる。
「勇者様の幼い頃は、さぞ可愛らしかったのでしょうね」
「えっ、俺?」
言われて、リンデルは首を傾げる。
「そうかな……。そんな可愛い子ではなかったような……」
チリリと焼け付く様な痛みと共に、リンデルの眼裏に人影が浮かぶ。
それは確かに、自分を可愛いと、心から慈しんでくれた人のはずだった。
その姿をもっとはっきり見たくて、リンデルは目を閉じる。
しかし、その影はリンデルの中からふわりと霧散してしまう。
まるで、初めから何もなかったかのように。
「……っ」
会いたい……。
会って、その胸に飛び込みたい。声が聞きたい。その顔が見たい。
熱望する想いだけは、こんなにハッキリとあるのに。
けれど、その相手の姿は、どうしても思い描けない。
自分が一体何を失い、何を求めているのか。
それはリンデル自身にもわからないままだった。
「勇者様……?」
ロッソの声に、リンデルは我に返る。
「ああ……。なんでもないよ」
金色の髪を揺らしてそう答える青年の姿は、なぜか朝日に溶けて消えてしまいそうなほど儚く見えた。
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