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第87話

 「ただいま」  神鳥は部屋のドアをウキウキと開けた。  そこにいるのは愛しいオメガだ。  猫を抱いているだろうと部屋をあける前から思ってた。  神鳥は自分が鳥の形態を持つせいか、猫が好きではないが、愛しいオメガが可愛がっているのだ。  何匹でも、何百匹でも飼えばいいと思っている。  だがオメガは笑ってそんな数の問題じゃない、と言って、年老いた猫一匹を可愛がっている。  「お帰りなさい」  オメガは窓際の椅子に腰掛けたまま、微笑んだ。  やはり、老猫を抱いている。  猫は最近元気がないらしい。  オメガはとても心配している。  その姿に神鳥はまた惚れ込むのだ。  ヨレヨレの猫にだって惜しみない愛情を注ぐなんて。  マジ優しくね?  好き。  自分だけのオメガ。  今はもう自分だけのものだ。  猫ごと椅子に座ったままのオメガを抱きしめた。  オメガは大人しく身を任せてくる。  このオメガの美しい大人の男性の姿が好きだ。  女性のようなオメガも大人なら嫌いではないが、やはり、この、男性ならではのエロさがたまらない。  女の代わりにオメガを求めているわけではないのだ。  ベータの女はすぐ死んじゃうから面白くない、というのとはまた別の話だ。  さっき抱いてきた黄金のオメガみたいな子供はやはりイマイチ乗り切れない。  反応が楽しくて、ノリノリで犯しておいてそれはないと自分でも思うが。  黄金【の】オメガでなければ抱かなかった。  人のだから楽しい。  でも、この今腕の中にいるオメガは違う。  自分【の】、自分【だけの】オメガだ。  過去はそうでなかったとしても。  むしろ、過去があるから好きだ。  前のアルファの存在ごと愛している。  「したい」  甘えてみる。  実は身体こそ大きいが神鳥はまだ18にもならない。  もっともアルファに年齢は関係ない。  実力だけが全てだ。  だから、古参の黄金とも対等に張り合える。  わずか5年程でここまでの進撃をして見せたのは、今時肉弾戦を繰り広げる戦い方のおかげでもある。  超好戦的な神鳥のやり方は、アルファの間でも畏怖があるのを神鳥は知ってる。  肉弾戦を挑み、常に相手のオメガを犯すやり方はアルファの間でも非難があるのは知ってる。  でも、神鳥は支配ゲームよりも、相手のオメガが欲しいのだから仕方ない。  もっと好きなのは、戦いそのモノだ。  だが今一番したいのは、自分のオメガを抱くことだった。  「したい・・・」  甘える。  まだ、今よりも若かった神鳥は、殺したアルファの上に覆い被さって泣く、この美しいオメガに恋をした。  黒いサラリとした髪で印のある白い項をかくし、普段は伏目がちの瞳も綺麗な黒であることを、あの時、涙を流す姿から知った。  普段だったらその場で無理やり服を剥いて、無理やり楽しむのに、その時だけは必死で口説いた。  それでも泣いて、死体に抱きつこうとするから、死体から無理に引き離さないで、ただ、服を丁寧にぬがせて、死体に抱きついたままの身体から説得していった。  オメガには。  アルファが必要なんだから。  神鳥にしてみれば我慢強い説得だった。    結果的には、死んだアルファにしがみついたままのオメガを、その姿勢のまま犯すことになったけれど。  それでもオメガは何度もイって。  泣いて。    泣いて。    とうとう諦めて、神鳥のモノになった。  死体から離れて、死体の隣りで神鳥に抱かれてくれた。  一人にしないで、おいて行かないで、  そう死んだアルファに向かってしがみついて泣いてるオメガを犯した時から、神鳥は愛してると確信してた。  こんな風に、どんなに酷くされてても、愛することを止めないオメガに惚れこんだ。    オレも愛して。  そんな風に。  神鳥はそう思ったのだ。  ボロボロのヨロヨロになっても猫を愛するように。  役立たずの死体になったアルファを愛するように。  犯しても犯しても、死んだアルファのことで悲しむオメガに惚れこんだ。  恐怖も憎しみも快感も。   その死んだアルファへの悲しみ以上にはならないことに。  オメガの中にまだそのアルファへの想いがあるからこそ愛していた。    神鳥の愛は。  とても深いのだ。  「したい、いいでしょ」  子供みたいに甘える。  年上のオメガは優しいため息をつく。  「寝かせてくるから待っていて」  猫を抱いて隣りの部屋に向かうのを許す。  神鳥はオメガが自分以外のモノを愛していてもいい。  白面とは違うのだ。  あいつは自分の子供ですら近寄らせないらしい。  そんなのは間違っている。  神鳥は自分のオメガが他の誰かをまた愛しても許す。  このオメガは愛することを止めない。  何をしても止めない。  だから愛してる。  でも。  この身体は自分のものだ。  誰を何を愛しても、この身体をどうにかしていいのは自分だけだ。  オメガが戻ってきた。  神鳥の視線に小さく微笑み、ゆっくり自分から服を脱いでいく。  神鳥以外のアルファに愛され大人になり、でも、それはその全てを神鳥に与えるためだった、そう神鳥が信じているオメガの身体。  他人に慣らされた身体の甘さ。  それを自分のモノに書き換える昂奮。  神鳥は、楽しくて仕方ない。  全ての服を脱ぎ捨てて、オメガは言った。  「君のモノだ」  両腕をこちらへ伸ばして。  愛してる、ではない。  だがいい。  それはさほど問題ではない。  今はまだ。  でもいつか。  「愛してる」になる。    神鳥はそれを疑ったことなどない。  だって。  愛しているからだ。    

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