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第89話
オメガは猫のための買い物に出た。
オメガは外に出ることを許されている。
神鳥はアルファらしくないアルファだ。
オメガに自由を与えている。
GPSを着けられてはいるが、これはむしろ、万が一神鳥のことなどなにも知らないベータに攫われた時のためのもので、つけたくないならそれは構わないとまで言われている。
神鳥のオメガに手を出す者はいない。
血生臭さ過ぎるアルファだから。
殺したアルファの数はアルファの中でも例外的に多い。
肉弾戦を好んだ頃の白面ですら、そんなに殺してない。
アルファでも関わることを避ける、危険なアルファなのだ。
だから。
こんな風に自由に動き回れるのは。
神鳥の元に来てからだった。
出来るだけ目立たない、高価ではない地味な服を着て、眼鏡とマスクで顔を隠す。
オメガは。
綺麗過ぎるのだ。
それはオメガ達が望んだものではないけれど。
肌をくすんでみせるメイクすらする。
痛んだ髪のウエッグまでつけたなら、まあ、スタイルか良すぎるが、まあ、それ程目立たない男に見えなくもない。
いざという時のために銃も携帯していた。
訓練も受けている。
本当に神鳥は自由にさせてくれるのだ。
オメガは自分の身を守る訓練さえ受けさせてもらっていたのだった。
望めば神鳥は何でも許してくれる。
前のアルファを思い出させて抱くことをを止めて欲しいという願い以外は。
オメガは今ではそれなりに緊張はしているが、自由に屋敷をでて歩き回っている。
ベータ達の中を歩き、買い物をするし、猫を動物病院につれて行ったりもする。
素性を隠してはいるが、知り合いも出来た。
いつもいく喫茶室のマスターや常連客だ。
とても。
楽しい。
ベータのふりして過ごすのはとても楽しい。
ああ。
でも。
これは現実じゃない。
現実から逃げるための夢なのだ。
どんなに自由にさせてくれても。
神鳥からは。
逃げられない。
オメガであることからも。
オメガは溜息をついた。
動物病院で、食欲が落ちた猫のための餌はどうすればいいのかを教えてもらい、お勧めのフードも聞いて、買い物してきたのだ。
猫は。
猫だけは、安心してオメガが愛することができる存在だ。
以前のアルファがプレゼントしてくれた。
12の時から飼って、18年。
長く生きている。
少しでも元気になって欲しかった。
ペットを連れてきてもいいあの喫茶店にまた一緒にいきたかった。
また、小さな溜息をつきながら、買った猫のための商品を抱えて喫茶店に入る。
少し、誰かと猫の心配をわけあって、それから家に帰りたかった。
猫は使用人が見てくれているし、携帯で猫の部屋の様子を確認したら、今日はのんびり動いていたから安心した。
少し話して帰ろう
猫好きのベータみたいに。
でも、喫茶の扉を開けてかたまった。
常連客ばかりのはずの店に、見慣れない少年がいて。
客達はその少年の美しさにばかり気をとられていたけれど、オメガにはわかった。
これは。
少年ではない。
男ではない。
オメガだ。
何故オメガが一人歩いてる?
自分が例外なのは知っている。
そんなオメガはほとんどいない。
というよりいない。
神鳥は特例だ。
このオメガは。
何???
固まるオメガに少年は手をあげて、知り合いのように声をかけてきた。
「待ってたよ」
その声はあまりにも自然で。
オメガは悩み、判断を下した。
興味が勝った
一人出歩くオメガとは?
しりたかったのだ。
オメガは少年に求められるままに、少年の向かいに座った。
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