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第1話
寂れた路地裏で、大柄の男3人に囲まれる小柄な青年。
睨みつける男達を前に青年は、口元にうっすらと笑を浮かべていた。
「ウルフか何だか知らねーが、昨夜の礼はたっぷりと返してやるぜ!」
悪役さながらの台詞を合図に青年に殴りかかった。
男の拳を掌ではらい。
その場でひらりと飛び上がると、男の顔面に回し蹴りを喰らわした。
グ…と短く呻き声をあげた男が、地面に倒れると同時に連れの2人も殴りかかる。
その度に青年は、小さな体を翻し男達を翻弄した。
「…よわぃ……あぁあ。弱い弱い弱い!
そんな拳が当たるとでも思ってんのか?!アァ?」
青年の容姿からは、想像もつかないドスの効いた声を出し男達を挑発した。
その挑発に煽られた男達は、怒りに顔を染めた。
未だ地面に倒れていた男が、青年の足を取り体制を崩す。
その隙を狙ったとばかりに、もう一人が背後から青年の腕を締め上げた。
身動きの取れなくなった青年。
成り行きを見ていた男が、拳を振り上げ殴りかかった…
だが…意識を失ったのは殴りかかった男の方で、よろめきながら後ずさると、派手に室外機を巻き込み倒れた。
その男の口から歯が吐き出され、鼻や口からは、赤黒い血が流れ出ていた。
「…ってめぇー!!」
青年を縛り上げていた男が腕の力を強めた時、青年は勢いよく足を振り上げ体を丸め、男の顔面に踵をめり込ませた。
「グフ…」
あまりの衝撃に鼻の骨は折れ、青年を締め上げていた腕の力が緩んだ。
青年は、悶え苦しむ2人の男の頭を鷲掴みにすると、形のいい唇を寄せ囁いた。
「また相手にしてやるよ。」
その声に勇ましく威勢のよかった男が肩を震わせた。
地面に2人の頭を叩きつけると、もう一人の頭を踏みつけ路地裏から出て行った。
切れかかった街灯に青年の姿が浮かび上がる。
150センチ程の小柄な体格。
黄金色に染まった髪はさらりとし、キューティクルが煌めく。
色の白い肌に黒真珠のような瞳と、小さくぷっくりとした唇がよく映えた。
青年の名は、小南 千月 18歳。
巷では、1匹狼《ウルフ》と呼ばれていた。
数十人の男達を相手に一晩で壊滅状態にまで追い込んだ最強の男。
奴は、Ω。
社会に疎まれ。護られ子を孕むだけのΩ。
見た目は、誰が見ても一目瞭然。
だが…その体は、誰のモノにもならない。
天涯孤独で獰猛な性格…愛に飢える事も知らない。
Ωでありながら、Ωになりきれない存在。
青年は、時が止まったように成熟をやめたこの体に心底満足していた。
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