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第1話
今宵も扉の向こう側を伺う。
静かに音を立てずにそうっと耳をつけて扉の向こう側を伺う。
ゆらめく蝋燭の炎に照らし出された、重厚な扉。
「入ってはいけないよ、あちら側の世界に行きたくなければ。」
父王はそう言って私の頭を優しく撫でると、触れたら消えてしまいそうな笑顔を残して、夜毎この扉の向こうに消えて行った。
母王はそんな父王に夏の間怒り狂い、秋になる頃には呆れ果て、冬になると城にある宝の1/3と付き従う者達を連れて、出て行った。
そして春になると父王はついに扉から出て来なくなった。
それでも呼び掛ければ応えてはくれていたが、再び夏が近付いた頃、廊下に虫の息で転がっていた。
すぐに医師団が呼ばれ手を尽くしはしたが、季節が秋に変わる頃、父王は崩御した。
「扉を開けてはいけないよ。何もしてはいけない。何もかもが十二分に用意されているから心配する事もない。お前は私にはなるな。」
その言葉が最後だった。
あれから年月が経ち、若王としてこの国を守り治めてきた。
父王の最後の言葉も忘れず守ってきた。
しかし、年を経るにつれ、まだこの中で生きているモノがあるのかと好奇心が頭をもたげてくる。
扉に耳をつけて全神経を集中させる。
普通では聞く事のできないはずの音が聞こえてくる。
しかしこの唯一の魔力を持った耳をしても、聞こえるのはゴソゴソと言う何かが動く物音のみ。
「まだ動いているのか…。」
ほっとするような残念な気がするような、複雑な思いの籠ったため息をそっとついて扉の前を立ち去る。
夜の帳の中、重厚な扉だけが静かに蝋燭の炎に照らし出されていた。
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