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第2話

山と山の間に挟まれた小国に、私は世界の果ての蟻の瞬きする音すら聞く事ができると言われている魔力の耳を持って王子として産まれた。 優しく慈悲深く、そして少し病弱な父王と、その父王を補佐していたエネルギッシュで勝ち気な母王。 親子三人が平和に幸せに暮らす城に、ある日突然扉が現れた。 何もなかった壁に突如重厚な扉。 城中の皆が集まり、じっとその扉を見つめている中、ずずずっと言う音を立てながらまるでこの世の全てを飲み込むかのように口を開けた。 「王は誰だ…お前か?」 まるで地獄の底から響いてくるような声と共に、私に伸びてくる細く白い手。 「王は私だ!」 父王が突如私の前に立ち塞がると、その手は父王の顔をなぞりあげ、腕を掴んで扉の中に引きずり入れた。 中から父王の悲鳴が聞こえ、時間が止まったかのように動かずにいた母王の体がその声で覚醒し、真っ赤な顔で扉の中に駆け込もうとした瞬間、扉はスッと音もなく閉まった。 目の前で閉まった扉は何しても開く事は出来ず、それでも狂ったように扉を開けようとする母王を皆で引き離して、わんわんと泣く私を扉の前に置き去りにしたままで、寝室へと運んで行った。 「泣くな、息子よ。」 しばらくその場で泣き続けていた私の耳に、扉の中から聞こえる父王の声。 泣くのをやめて立ち上がり駆け寄ると扉に耳を付けた。 「私は大丈夫だ…ただ…ここか…ら、離れて欲しい。…っやく、はや…っくぅ…離れてく…れ…ぇ…」 父王の必死の訴えを聞き入れ、私はその場から走り去ると、落ち着きを取り戻した母王のベッドに近付いて、この話をした。 母王はすぐさまベッドから下りようとしたが、周りの者達に引き止められると、私を残して全員を部屋から出した。 「おいで…」 差し出された腕に手を重ねるとそのままぎゅっと母王の胸に抱かれた。 「母王?」 その顔を覗き込む私に大丈夫と笑顔を向けたが、その瞳からはハラハラと涙がこぼれ落ちていった。 いつもは気丈な母王の初めて見る儚げな姿は、今も私の胸の奥に刻まれている。

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