12 / 12

第12話

あの時から私は毎日と思われるくらいに彼の者と体を合わせ、何度も何度も貫かれた。 そう言えば、ここ最近は食事とも言われなくなったな。 横を見るとすやすやと寝息を立てている。 いつの頃からかこのように一緒に寝るようにもなった。 愛して…いるのだろうか? 愛されて…いるのだろうか? 体は何度もその境界を飛び越えて、奥深くまで受け入れている。 受け入れているのは私か…その痛みも苦しさも恐怖も、全て私が受け入れているに過ぎない。 ふと思い出す、最初の日に見たはずのあの笑み。 あの時は意識を手放す直前で、考えもしなかったが、なぜあのような笑みを浮かべたのだろうか? 今、思い浮かべてもぞくっと寒気がした。 「何を考えてる?」 寝ていると思っていた瞼が開き、私をじっと見つめていた。 「別に…」 そうかと言いながら私に背を向ける。 その背中に腕を回したい。後ろから抱きつき、彼の者の体温を感じて眠りたい。 未だに繋がれたままの四肢がもどかしい。 「なぜ、外してくれないのだろうか?」 ぐっと腕に力を入れる。 軽く動かす程度ならば問題ないくらいに余裕のある見えぬ糸が、キツく手首を締め付け、腕が外れるのではないかと思うくらいに引っ張り上げられた。 「うあっ!!」 痛みに声が出た。 肩肘をつき、いつの間にかこちらを見ている目とぶつかった。 「何をやっている?」 呆れたような声に、顔が赤くなる。 反対側を向こうとした顎を掴まれ、無理矢理顔の方向を変えられた。 「そろそろ飽きたな…」 「え?!」 突然四肢が引っ張られた。 「ぅあああああああっ!!」 みしっという音が体内から聞こえる。 引きちぎられるっ!! 恐怖と痛みで涙が止まらない。 「愛などと刻印の術などで誓わせてはみたが、そろそろ甘いのにも飽きたわ。」 刻印の術? 「苦いのも甘いのも私には合わぬか…」 何を言っているんだ? 「あぁ、絶望の味…ふむ、あれはなかなかに美味だったな…テイも最後はそれだったが、長続きせぬ。空虚…アレは最悪だ。ああなったらもう食べられぬ。」 扉の外で転がっていた父王の姿を思い出した。 「さて、お前はどれ位美味くなるのだろうな?」 顔をなぞりあげ、スッと指を動かすと、見えぬ糸が少し緩んだ。 「ライ、お前の心を元に戻してやろう。術をかける前の状態に…どうだ?」 パチンと指が鳴り、そばにいるだけで幸せだと、その行為を受け入れ、甘くとろけていた心が一瞬で冷たく氷のようになる。 サイ…顔がはっきりと浮かび、私の名を呼ぶ声が聞こえる。 「サイーーーーーーっ!!」 なぜ忘れていた! 目の前でニヤニヤと笑うこの男は仇!! 「離せ!くそっ!!サイの仇!!!」 どんなに暴れても切れぬ糸によって動きは制限され、それでも引きちぎろうともがいた。 「お前はその仇を愛し、受け入れて来たのだよ…愛しき君と…」 思い出す。それこそが罪。 「あ…あぁぁぁああああああっ!!!」 その一つ一つがサイへの裏切り、罰せられるべきは私…。 心が壊れる。いやいっそ壊れた方が楽か…そうだ全てを忘れ楽に… 「させはせぬ!」 ぐっと四肢が引っ張られる。 「ああああああああっ!!」 痛みが私の意識を覚醒させる。 「私も色々と学んだのよ。お前を食い尽くすのはまだまだ先…それまでお前は私の意のままに絶望の淵を漂い、その味を堪能させておくれ。テイではしくじったが、あれでコツは掴んだ…お前は愛よりも深く私と繋がり、その身も心も私だけのものとなる。絶望と失意、そして虚無となるまで、私がその全てを喰らい尽くしてやろう。」 みしっと体内で音がする…もう終わりなのか…もう終わるのか…何度も繰り返される痛みに意識が戻る。 甘い記憶も果てしない未来も全てが遠くて、手が届かない…サイ…サ…イ? 呼び続ける名前、誰かもわからず、忘れてはいけないと呼び続ける。 サイ…サイ… 暗い…真っ暗だ… 暗いのは嫌だ…あの日に扉の中に見えた闇。 あれは私の心。 罪深い私の未来を映し出した…絶望の闇。 怖い。怖い。 泣き喚く幼い私。 白く細くなった手を伸ばした。 掴む直前に男が立ちはだかる。 私を連れて行け! これでいいか…私の闇を共にする者…捕まえた…私の…。

ともだちにシェアしよう!