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プロローグ【完成形ハッピーエンド】 1 *
パキッ、と。氷の融ける音が響いた。
「氷。……最近、融けやすくなってきたね」
自分より背が高く、当然ながら体格もいい男に組み敷かれながら、春晴 秋在 は呟く。
感情が宿っているのか、単純に読み取りにくいだけなのか。どこか遠い目をしている秋在を組み敷く男──夏形 冬総 は、呟いた秋在を見て小さく笑った。
「そうだな。……もう、だいぶ暑くなったからな」
「うん、暑くなってきた」
「……動いても、いいか?」
「うん。……ん、っ」
先ほどまでかいていた汗が、秋在の額から引いている。
微笑みながら、冬総は気付いた。……秋在の言っていた『暑くなってきた』は、気候のことではない。
きっと、自分自身のことなんだろう。そう、冬総は察したのだ。
「ふ、ぅあ……んっ」
組み敷いてからずっと繋がっていた冬総が身じろげば、当然、秋在は悶える。呟きの時とは違う色の声が、冬総の鼓膜を揺すった。
高校生にしては小柄な秋在だが、後孔ではしっかりと冬総の逸物を咥え込んでいる。それがまた、冬総に笑みを与えた。
「三回目だけど、さすがに体、つらいか?」
「は、ぁ……っ。あと、二回は……大丈夫、だよ……っ?」
「っ。……そんなの、どこで覚えてきたワケ?」
ぐっ、と冬総が距離を詰めれば、秋在は笑う。
床に放り捨てられた使用済みのコンドームが、ふたつ。続くもうひとつは、秋在のナカにある。
「んぁ、ん、ふ……っ」
ゆさゆさと、冬総が秋在の体を揺すった。すると、秋在は小さな体をピクピクと震わせ、素直な反応を零す。
甘い吐息を漏らす秋在は、自身に覆いかぶさる冬総を見上げた。
そのまま、冬総の派手な金髪を。そして、天井を眺めた。
「……秋在? どうした?」
自分よりも、後方に。秋在の視線に気付いた冬総は動きを止め、秋在に訊ねる。
すると秋在は、ポツリと呟きで答えた。
「──宇宙人が、いたとしたら。……フユフサは、どうする?」
突拍子もない問いかけを、向けられる。
冬総は秋在の膝を持ち上げ、キスをした。
「その宇宙人は、四足歩行?」
「うぅん。足はないの。腕もなくて、だけど胴体はあって、翼が生えていて、ただただボクらを見下ろしてる」
冬総は、知っている。
──そんな生物、この部屋にはいない。それは、秋在の妄言だ。
それでも冬総は、決して秋在を否定しなかった。
「俺たちのことを見てるんだろ? ……だったら、やることはひとつだな」
「そう、ひとつなんだ。フユフサが思うそれは、なに?」
唇を寄せていた秋在の膝に、冬総は舌を這わせる。
そのまま、ゆっくりと腰を引いた。
「んっ、ぁあ……っ」
体を震わせた秋在に向かって、冬総は笑う。
「──見せつけるよ。俺と、秋在の仲を」
ずんっ、と。余裕無さげに、腰を落とされる。
秋在は小さな悲鳴に似た声を上げた後、天井ではなく冬総を見た。
「そっか。……ボクら、頭から食べられちゃう……の、かな?」
「なに言ってるんだよ? 俺以外の奴に、秋在をあげるワケないだろ?」
「……そっか」
シーツを握っていた秋在の手が、冬総の背に回される。
「……そっかぁ」
幸福そうに笑った秋在が、目を閉じた。
まるで伝染したかのように、冬総も幸福そうな笑みを浮かべる。
そのまま、冬総は秋在の唇に口づけた。
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