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プロローグ : 6
海に辿り着いた二人は、浜辺を歩いた。
「秋在、コレは?」
砂浜にしゃがみ込み、冬総がなにかの欠片を拾う。
冬総の前を歩いていた秋在が、呼び声に気付いて立ち止まる。そのまま、冬総が拾ったなにかをじっくりと眺めた後。
「違うよ、フユフサ。それは、プラスチック」
秋在はガッカリしたように、首を横に振った。
「そっか。……じゃあ、こっちは?」
「それは、貝殻」
「そっか。……なら、コレはどうだ?」
「それも貝殻だよ。フユフサのフは節穴のフだね」
砂を靴で蹴飛ばしながら、秋在はつまらなさそうに呟く。
唇を尖らせているけれど、秋在は決して怒っていないと冬総は分かっている。
「秋在。もしかして、なんだけどさ」
爪先でグリグリと、秋在は砂を掘っていた。しかしその足は、なにかの目的を持って砂を掘っているようには見えない。
ただ、手持ち無沙汰だから。そう言いたげな動きだ。
だからこそ、冬総の予想は確信に変わる。
「──人魚の骨探し、飽きたんだろ」
冬総の指摘に、秋在は言葉を返さなかった。
興味のないことと、自分にとって不都合なこと。秋在はそれらに、返事をしない。
砂を掘り、砂を踏み、砂を蹴飛ばす。そんな秋在の様子を眺める冬総は、別の言葉を告げることにした。
「人魚の骨、探さなくていいのか?」
「うん」
今度は、驚くほどあっさりと返事がくる。
「この街に、人魚はいなかったから」
そもそも、街に人魚がいる云々ではないはずだ。なぜなら秋在は、人魚の骨を【失くした】か【落とした】のだから。
「そっか。いないなら、仕方ないな。そりゃ、プラスチックと貝殻しか見つからないわけだ」
だが、わざわざそんな無粋なことを冬総は言わない。それらしい返事をして、手にした貝殻を砂に放った。
「ねぇ、フユフサ」
両手を後ろで組んだ秋在が、くるりと、冬総を振り返る。
砂浜にしゃがみ込んだままの冬総は、秋在を見上げた。
「あっちの岩場、行ってみない? きっと、ボクらを呼んでる」
少しずつ、暖かくなってきた季節。けれどこんな平日の昼間に、わざわざ海に来たがる人なんて、きっといない。
当然、岩場にも。
「岩場か。……なにかあるのか?」
立ち上がった冬総が、秋在の隣に並ぶ。
「あるかもしれないし、無いかもしれないけど、あるかもしれないでしょ? 憶測と空想と想像と妄想じゃ、現実なんて見えないよ」
まるで、屁理屈。
けれど、無邪気。
秋在はイタズラが思いついた子供のように、屈託のない笑みを浮かべる。
「フユフサのフは、節穴のフなのかな?」
秋在が岩場に行きたいのなら、冬総は当然、ついて行く。
なのに、秋在が冬総を煽ってきたのは? ……単純に【そういう気分だったから】だろう。秋在の行動理念は、冬総にも理解できないものだ。
それでも……。
「今日の秋在、無茶苦茶に可愛いな」
鞄を抱え直した冬総は、隣に並ぶ秋在の耳元で囁く。
冬総の素直な気落ちを、どう受け止めたのか。秋在は、ただ一言「飴はもう死んだんだよ」とだけ、返した。
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