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秋在の部屋に入り、冬総はベッドに座る。
秋在は鞄を勉強机に置いた後、そのまま椅子に座っていた。
「春晴。……事情聴取、してもいいか?」
秋在は、刻まれたノートを撫でている。返事はない。
そのノートを羨ましいと思いながらも、冬総は言葉を続ける。
「この前、頭からビシャビシャになってたよな? あれは、誰かにやられたのか?」
「たぶん」
「は?」
「たぶん、そうだと思う」
予想外にも。
秋在は水浸しになっていた件について、犯人の存在を示唆する返答をした。
「散歩してたら、窓から水が降ってきた。教室は雨だったのかな」
「……ンで、それ、言わないんだよ……ッ」
脱力して、冬総は頭を抱える。
誰かに水をかけられたのなら、最初からそう言えばいい。
なのに秋在は、ぼやっとしたことしか言わなかった。
(それが春晴らしいと言えば、それまでなんだけどさ……)
そして冬総は、そんな秋在が好きなのだから仕方ない。
「一応訊くけど……犯人の顔とか、見えたか?」
「青いバケツ」
「それは水を入れてた容器だろ……」
今日の秋在は、どうしても無機物に意思を持たせたいらしい。
椅子に座ったまま足をプラプラと振っている秋在は、ノートから手を放していた。
「……犯人に心当たりとか、あったりするか?」
「ナツナリくんは?」
質問に、質問で返す。
秋在はジッと、冬総を見つめている。
質問の答え以外は、受け付ける気がなさそうだ。
(春晴に嫌がらせをしそうな奴、か……。……そん、なの……)
……正直な話。
秋在を嫌っていそうな人なんて、沢山いそうだ。
言葉を詰まらせた冬総を眺めたまま、秋在は口角を上げた。
「たぶん、同じ」
どうやら、秋在も犯人候補がいることは分かっているらしい。
そして冬総同様、絞り込めないのだろう。
「お揃いだね。嬉しいな。……嬉しいのも、お揃いだといいな」
ふにゃりと笑った秋在を見て、冬総は小さく息を呑んだ。
……そして、自分の隣をポンポンと叩く。
「春晴……今日は、ベッドに座んないのか?」
純粋な疑問と、邪な欲望。
秋在は笑みを消して、少しだけ考え込む。
そして。
「じゃあ、抱っこ」
そう言って再度、笑った。
(『抱っこ』って……高校生にもなって言うかよ、普通……!)
内心で呆れながらも、すぐにその考えを消し飛ばす。
――秋在に【普通】なんて言葉、当てはまらない。
――下手をすると、侮辱と受け取られるかも。
冬総は困ったような笑みを浮かべた後、椅子に座る秋在へ近付く。
「抱っこだけじゃすまないかも」
椅子に座っていた秋在を、冬総は軽々と抱き上げる。
そして……柔らかそうなその頬に、わざとらしく歯を立てた。
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