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快晴の昼休みに、びしょ濡れで教室に戻ってきただけではなく。
それからも……秋在は、よく分からないことに見舞われていた。
――例えば、ノートを切り刻まれていたり。
――ジャージが泥だらけになっていたり、外靴を隠されていたりだ。
それでも、当の本人――秋在は。
『ノートも、踊りたいときがあるんだね』
『青春してきたのかな。……楽しかった?』
『人に支配されてるだけじゃ、飽きちゃうよね』
と言って、ぽややんとしていた。
それらの反応を見る限り……どうやら、秋在が自分の意思でやっているわけではないらしい。
自作自演の可能性も、勿論捨てきれたわけではない。秋在なら、やりかねないだろう。
しかし、どうにも腑に落ちない。
(妥当なラインを考えるなら……まぁ、いじめ……だよな)
――けれど、いったい誰が?
帰りのバスに揺られながら、冬総は物思いに耽る。
隣に座る秋在は、数十分かけて見つけた外靴を眺めて、ご満悦そうだ。
「……春晴。その、大丈夫……なのか?」
「なにが?」
「なに、って……」
靴を見つめたまま、秋在が浮ついた声で返事をする。
どうして、いじめられているかもしれない秋在本人よりも、冬総の方が落ち込んでいるのか……。
そう考えかけて、答えはすぐに見つかった。
――秋在だから、仕方ない。……という、模範的な答えが。
「お前、いじめられてるんじゃないのか?」
「どうだろう。……ボクは、この子たち自身の意思だと思ってるよ」
返事をした後、秋在は下を向いたまま「ね?」と言っていた。
靴と対話をしているらしい秋在は、一旦保留にしよう。
(まぁ、春晴はこういうの……気にしない、よな)
ホッとしたような、落ち着かないような。
秋在が泣いていないのなら、ひとまずはいいかもしれない。
だが……今後もこういったことが続くのは、非常によろしくないとも思う。
「あのな、春晴。もうちょっとだけ危機感を持ってもいいと思うぞ?」
「彼等の自由意思を拒むのはよくないよ」
「それが、その……誰かにやられてる可能性だって、あるワケだろ?」
……むしろ、それしかありえない。
いつの間に取り出したのか……秋在は切り刻まれ、紐暖簾のようになったノートで遊んでいる。
……秋在からすると、ノート【と】遊んでいるのだろう。
「――それがナツナリくんじゃないなら、どうでもいいよ」
なんの気なしに秋在が紡いだ言葉に、冬総は思わず。
……ときめいた。
(俺が犯人だったら、気にするのか。……って! 喜んでる場合じゃないだろ、俺ッ!)
仮に、秋在が本心から気にしていないにしても、だ。
この謎を、放っておくわけにはいかない。
(これは……もうちょっと真面目に、犯人捜ししないとな……)
被害者本人である秋在が気にしていないことも、当然、問題だが。
冬総にとっては、秋在の私物を好き勝手されているということは……大きな問題なのであった。
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