182 / 182

(1: 6) ~了~

 一度の性交が終わった後、冬総は上機嫌で秋在を抱き締めていた。 「秋在、大好きだぞ。秋在が俺のことを『嫌い』って言っても、俺は秋在のことが大好きだからな。絶対に離さないぞ、秋在」 「フユフサ、うるさい」 「好きだよ、秋在」 「囁き声でもうるさい」  秋在はどこかご機嫌が斜めだが、それでも冬総は幸せそうに笑う。  自慰行為を迫られた時はどうしたものかと思ったが、結果的には冬総の望むこととなった。  それが嬉しくて、冬総はにやけ面を隠すことができない。 「ヤッパリ俺の秋在は世界一可愛いな。ツンツンしてても大好きだし、苗字呼びの秋在も逆にレアで好きだぞ」 「ボクは苗字呼び、ちょっと寂しい」 「そ、そっか。じゃあ、もう呼ばないようにする」  膝の上に乗った秋在の背中を撫でながら、冬総はシュンとする。  そうすると、秋在がそっと顔を上げた。 「あの頃は、黒髪だったね」 「ン? あぁ、そうだな。ピアスも開けてなかったっけ」 「もう黒にしないの?」 「ン~……? 秋在が『黒がいい』って言ったら、戻すかも」  そう言いながら、冬総は秋在の黒髪を撫でる。 「でも、黒にしたら秋在とお揃いか。それも捨てがたいな」 「ボクが金髪にする?」 「それは断固として拒否する。秋在の可愛い髪が痛む」 「自分は染めたくせに」  手を伸ばし、秋在は冬総の耳たぶをつつく。 「ピアスも、勝手にした」 「先手を打つが、ピアスなんてもっと駄目だからな。秋在の体に傷が付くとか、俺には耐えられない」 「全部そっちが先にしたのに」 「俺はいいんだよ」  へらりと、冬総は笑みを浮かべた。 「秋在、今の俺を見て『カッコいい』って言ってくれたからな。それに、これは【変わりたくて選んだ道】だから。秋在が、俺を肯定してくれた証拠みたいなモンだからさ」  屁理屈じみたことを言っている自覚は、ある。  それでも、冬総は今の自分を好きになれた。  そのきっかけとなった髪も耳も、今は変えるつもりがない。  ……秋在に頼まれたら、話は別だが。 「そうだ。秋在、あと一個のお願いは決まってるのか?」  冬総からの問いに、秋在は首を横に振る。 「まだだよ。ずっと、まだ」 「そっか。じゃあ、思いついたら言ってくれ」 「貸しが増えたら言う」 「一個はずっとストックしておくってことか……!」  それはそれで怖いような、複雑な気分だった。  秋在は冬総の首筋に顔を埋めて、モゴモゴとくぐもった声を漏らす。 「――返すまで、離れられないでしょ」  聞き取りづらくて。  だけど、ハッキリと聞こえてしまった言葉。  顔を埋めたままの秋在を見て、冬総は思わず破顔する。 「俺は秋在に嫌われたって、離すつもりがないのにか?」 「ん」 「要らない心配なのになァ……」  秋在の背を、冬総はポンと撫でた。 「俺はお願いのストックなんてなくても、秋在からのお願いはなんでも聞くけどな」 「お願いし甲斐がないね」 「そうきたか……」  冬総が小さくショックを受けている中。  ――秋在は終始、冬総の首筋に笑顔を埋めていた。  当然、冬総はそのことを知らない。 【突発的ニックネーム】 了

ともだちにシェアしよう!