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揺れる五夜
笹本との待ち合わせは郊外のシティホテルだった。
待ち合わせに現れた紫音を笹本は嬉しそうな笑顔で迎え、人目があるからとホテルの部屋に連れて行った。
「決まり事はありますか」
部屋に入るなり上着を脱ぎながら紫音が抑揚のない声で問う。
「私からの要望は先日お伝えしたことのみです」
ベッドに腰を下ろしかけていた笹本は動きを止め、困惑した顔を崩し笑った。
おいで、と紫音の手首を引き、自分の開いた脚の間に紫音を入れそのままベッドに腰を下ろす。
後ろから柔らかく沿うように腹に腕を回された紫音は途端に身体を固くした。
そんな紫音に気付いた笹本が微かに笑う。
「慣れてないのに慣れた風を装わなくてもいいから」
「そんなこと…」
「大丈夫。君の希望は飲むよ。詮索も干渉もしない。ただ、会う時は俺を恋人だと思って甘えてくれる?」
「恋人…?」
そう、と呟いて笹本は紫音の項に軽く唇を押し付けた。
「俺には親に決められ結婚した妻がいる。子供もいる。もちろん嫌いな訳じゃない。でも…愛して欲することはない。これまでもこれからも、恐らく」
笹本の唇が項を辿り耳の下を擽る。
「離婚は……しない、出来ない。でも、君を愛したい」
その声は遊び好きな不貞な男のものには聞こえなかった。
この男はダメだ。
相手をしてやるなら、遊び好きで遊び慣れたくだらないかわいい馬鹿な男がいい。
転がされているように見せて、実は手綱を握っているのは自分。
それに気付かない少し足りないくらいの男がいい。
何度か身体を許し、云うことを聞く素直で擦れてない若い自分が、最初で最後の願いだと強請ればこれまでの男は頬を緩ませまた酷く惜しみつつも次への男への橋渡しをしてくれた。
この男はこれまでの男と違う。
「私は……いずれ政界の仕事に携わりたいんです」
紫音は性急だとわかっていながらも口を開いた。
「力に……なってくださいますか」
紫音の言葉に笹本はまた微かに笑いを溢し、腹に回した腕に少し力をこめた。
「君が望むなら、俺の出来ることは全てやるよ」
一目惚れなんて初めてなんだ。
こうして誘ったことも、愛したいと言ったことも。
そう囁くように紫音の耳に落としながら笹本が紫音の身体をベッドに寝かせる。
まるで恋人との情事のような笹本からの愛撫にその夜紫音はあられもない声を上げ泣きながら身体を開いた。
上っ面ではない、身体が叫ぶようにもっと、と甘い声で強請りながら……
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