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揺れる五夜
気が付けば笹本との関係はもう半年を越えていた。
一人の男とこれほどまでに続いたことはこれまでなかった。
連絡は常に笹本からで、記録に残らないようにと公衆電話での連絡。
ホテルに一緒に入ったのは最初の時のみで、それからは時間をずらして入り、別れる時も別々に出た。
笹本と会う時はたいてい紫音は泊まり、惜しみながらも帰る笹本を見送る。
「紫音、愛してる」
別れ際必ずそう言って紫音を抱き締める笹本に、紫音は一度も応えていない。
紫音の頬を撫で、笹本が笑う。
「いいんだ、そんな困った顔しないで。君は……他に思う人がいるんだろう?」
その代わりでも俺はいいんだ、と笑う笹本にも紫音は何も言えなかった。
ふとあの人の声が蘇る。
でもその声は本当にあの人の声なのか、それがわからないほど時が経ってしまった。
好きだよと言って欲しい。
紫音、と呼んで抱き締めて欲しい。
それを今自分に与えてくれるのは、泣いても泣いても諦めきれなかったあの人ではなく、笹本だ。
「紫音、ほら、言って…どうしてほしい?」
「い、やっ……」
「このままだと辛いだろう?ほら、言ってごらん」
「あっ……イキたい、もう…」
「……良い子。イッていいよ、してあげる」
紫音を抱き、焦らした挙句に巧みなやり方で紫音にこれまでにないほどの快感を与える。
好きだと愛してると囁き動く指や唇はどこまでも優しくいつでも紫音を厭らしく喘がせた。
「挿れて……奥が、切ない……お願い…」
入れ込んだ指を締め付けながら紫音が強請るのを笹本は息を飲み吐き出してからゆっくりと首を振った。
「約束を破ってしまう。君のここは……君の愛しい人に埋め開いてもらうんだろう?」
もうわからない。
二度と会えないかもしれない愛しい人より、目の前の愛してくれる男を欲する厭らしい自分。
それが間違っているのか、貫かれた後命を経ってしまうほど後悔するのか。
この優しい腕の中にいるとわからなくなってしまう。
だからやめとけば良かったのだ。
あの時感じた予感は正しかった。
この男はダメだ。
こんな汚れた自分でも愛してもらえるかもと期待してしまう。
「紫音……愛してるよ」
その囁きを永遠の物にしたくなってしまう。
決して自分のものにはなりはしないのに。
どうして望んでも仕方のないものばかり望んでしまうのか。
こんなことを繰り返しこれからも生きていくのか。
ただ、愛した人を愛したいと願うだけなのに、それはこれほどまでに叶わないものなのか……
笹本の腕に抱かれ、紫音が達する。
溢れる白濁の液が笹本の手を汚していくのを滲む目でとろりと眺めた。
今夜強請り、終わりにしようと一人心に決めて。
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