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ウェーリングゲメン
『いたぞ! あいつが鬼だ、鬼の子だ
なんとしてでも殺すんだ』
『いやっ! 見てあの子、角がある。鬼だわ、人間を食い殺しに来たわよ』
『逃げろ、みんな逃げろ! あいつに関わっちゃいけねぇ、あいつは』
忌み子だ
あたりを見回し誰もいないことを確認して冷たい川で洗濯をする。
今はふゆ、という季節らしい。
ふゆ、という季節は寒くて木も濡れていることが多くてうまく火がつけれなくて寒いから早くはる、という温かい季節になってほしい。
そっと頭に生えているつのに触る。
触った感じは石ころみたいに固くておれの拳ぐらいの大きさだ。
かみのけで隠しきれないぐらいに出っ張っている。
みんなおれのことをおに、という。
おには人を喰うらしい。
おれは人なんて食べたことがないのに、そのへんに落ちているきのみしか食べたことがないのに。
コツン、と頭になにか当たる。
振り向くと人がいてなにか言いながらおれに石を投げている。
ビチャビチャの服を持って走ってその場を去る。
おれは寝床に戻り一緒にいる人に声をかける。
「洗濯おわったよ」
一緒にいる人はにこっと笑いペタペタとおれのからだに触る。
前洗濯しにいったときに怪我して帰ってきたから怪我してないか確認しているらしい。
どこも怪我してないとわかるとうれしそうな顔をしてぎゅっとくっつく。
彼もまたおれと同じ忌み子と言われている。
彼はおれのようにつのはないけれど声が出ない。それとひととは違う目の色をしている。
「あのさ、さっき洗濯したときに川のなかに動いているやついた。
あれ、きっとさかなってやつだと思う。
おいしそうにたべてるの見たことあるから今度取りに行こうよ」
彼はまたうれしそうなかおをして頭を動かす。
おれは生きている中で彼と話すのが一番楽しい。
これがずうっと続けばいいのに、そうねがっていた。
『この村にいる忌み子を殺せ!
あいつらがいるから皆が死ぬんだ』
『あいつらは厄災よ! 早く早くいなくなって!』
『おかあもおとうも鬼に喰われた、復讐してやる……!』
ごはんをとって寝床に戻ると真っ赤に熱くなっている。
おれがいつも起こす火がおおきくなっておれたちの寝床を温めている。
はっとなり、彼を探す。
「どこ、どこにいるの。
おれはここだよ聞こえたら」
家から少し離れたところに彼は倒れていた。
彼に近寄るとあちこち傷だらけで嫌な匂いでこんなにあついところにいるのにすごく冷たくて。
体を動かしても彼は動かない。
「ねえ、おれ、けがしないで戻ってきたよ?
なんでいつもみたいにぎゅってしてくれないの?
いつもみたいになんで、してくれないの?」
どれだけ問えど彼は動かない。
火がすぐそこまで迫っている。
おれはいつも彼がしてくれるようにぎゅっとする。
「おれけがしてないよ。なのになんで、いつもみたいにしてよ。
やだよぉいつもみたいなかおしてよ。おしゃべりしてよ。
なんでなの、ねえぇぇっぇぇ……」
子供の泣き叫ぶ声が赤く染まった炎の中に消えていった。
人が抱きしめあったぼろぼろの骨だけが残っていた。
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