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第2話
そのポスターは凄く懐かしくて、切なくて目が離せなかった。
透明な海……その先は空と混じり合う碧色。
懐かしい帰りたい風景。
「海斗、何やってんだ?早く来い」
スーツ姿の男性に声をかけられたが海斗はそのポスターの前から離れられないでいる。
「相手、待ってるんだから早く」
痺れを切らした男性が海斗の腕を掴む。
真剣に見入るポスターを男性も見る。
「どこだよ、ここ?」
「与論島」
男性の質問に答える海斗。
「与論島?どこだっけ?沖縄?」
「与論島は鹿児島県」
「同じ南だろ?ほら、早く」
引っ張られる腕を海斗は振り払うと「俺……もう無理です」一言残し、来た道を走り出した。
後ろから男性の声がしたが、構わず全力で走り丁度停車していたタクシーに飛び乗った。
◆◆◆◆
「カイ、遊ぼう」
いつも1人だった幼い海斗に優しくしてくれていたのはハナと呼ばれていた同じ年の男の子。
男の子なのに女の子みたいな名前と人懐っこい笑顔。大人になった今も覚えている。
島を離れる時に泣きながらハナは手を降ってくれた。
「とうとーがなし!!」
ハナが叫んだ言葉。
意味は島の言葉で「ありがとう」
「とうとぅ」は、「尊い」。
「かなし」は、悲し・哀し・愛し。
大人になってから意味を知った。
凄く美しい言葉だと意味を知ってから思った。
ハナに会いたくて毎日泣いていた。あの島にもう一度行きたいと何度も思ったけれど、子供だったからどうしようもなくて……いつか、大人になったら行こうと誓った。
ハナは元気だろうか?
ハナと遊んだ海は変わらないだろうか?
「カイ、星の砂を年の数だけ拾うと幸せなれるんだよ」
ハナと一緒に行った場所で星の砂を拾った。
「カイ、僕と結婚しよ?そしたら毎日一緒にあそべるよ?」
その時は結婚の意味が分からなくてただ、一緒に遊べるっていうだけで「うん!」と返事をした。
ハナは「指輪の代わり」と黄色い可愛い花を海斗の指に巻いてくれた。
「大人になったらちゃんとした指輪あげるね」
そう言って笑ったハナが未だに忘れられない……。
◆◆◆◆
「頭……痛い……」
海斗は頭を押えて起き上がる。
ズキズキする痛みと少しの吐き気。
気持ち悪い……。
吐きそう……と今、寝ていた場所から降りようとしてある事に気付く。
ここ、どこ?
全く知らない場所。
そして、さらに気付いた。
「俺、服着てない!!!」
自分は見知らぬ場所で寝ていて、寝ていたのはベッドでしかも全裸。
えっ?ええ?どーした?
さっきまで幸せな夢を見ていた筈なのに起きてみると知らない場所で全裸の自分。
「あ、起きた?」
知らない声が聞こえた。しかも、男性。
海斗はその声の主へ視線を向けた。
日に焼けた肌と結構な筋肉質で背も高い。
190くらいはありそうだな?と海斗は思った。
男性は南国風な顔立ちで目鼻立ちもハッキリしている。結構なイケメン。
「あの……ここ」
「俺の家だ、大丈夫か?昨夜かなり飲んだもんな」
飲んだ?
男性の言葉で色々と思い出してきた。
そうだ……ここは……
「与論島……」
「うん、昨夜、与論献奉でかなり飲まされてただろ?あれ、断ってもいいんだぞ?」
「与論憲法?拳法?」
よろんけんぽうと言う言葉に当て嵌められる漢字が思い付かない海斗。
「違うよもてなす意味の献奉だよ」
男性の説明で昨夜の事を思い出した。
あの夜……人と会うのをすっぽかしたまま、飛行機に乗った。
クレジットカード持ってて良かったなって思った。
気付けば与論島に来ていた海斗。
ホテルも何も予約していないし、フラフラ歩いていたら島の男達に声をかけられた。
「観光客か?飲んで行かないか?」
その言葉に釣られ店について行った。そこに目の前に居る男性も居た。
店の亭主で人気者だった。
そこで与論献奉というのに遭遇したのだ。
おもてなしだと言っていたな確か……海斗は思い出した。
持て成す主がなみなみに注いだ酒をすすめられた相手は飲み干さなければならないと聞いて海斗は結構強めな酒を飲んだのだ。
飲む前に自己紹介をして、色々と話が盛り上がった所までは覚えているが今の状況はどうしても思い出せない。
「俺って酔っ払ったんですよね?」
「ぐでんぐでんに」
「すみませんん!!」
土下座する勢いで謝る海斗。きっと、かなり迷惑かけたはず。
「泊まるとこないって言うからさ、俺の部屋に連れてきたんだよ、お前、しばらく島に居たいって言ってただろ?店手伝うならここに居てもいいぞ?」
「えっ?」
海斗は彼を見つめる。
「だから、居ていいって……帰りたくないって昨日、泣いたんだぞ?覚えてない?」
「は?」
なにそれ?って思った。帰りたくない……確かに帰りたくはない。
「海斗、着替えもなくここ来たんだろ?服」
男性は下着と服を海斗に渡した。
「名前」
何で?と思ったけれど、昨夜、自己紹介したよな……と思い出した。
「俺?覚えてないのかよ、大輝だよ」
「だいき……」
「風呂入るなら手伝うけど」
「は?」
この人、何言ってんの?って思った。
「昨夜、かなり激しくやったから……俺も海斗も欲求不満な感じだったからな」
はい?
欲求不満?なにそれ?
「ゴムしなかったから中出ししちゃったし……お前も中に出してって言うからつい」
海斗は彼の言葉にパニックになった。
「ちょ、ちょ、待って!!待って!中出しって?えっ?なに?それってセックスしたって事?」
「えっ?したけど?」
パニックな海斗をよそに平気そうな大輝。
「マジで……」
嘘だろ?と思った。
知らない相手と寝れる自分が信じられなかった。
だって……あの夜逃げたのは……スポンサーになってくれる条件でセックスを要求された……それが怖くて逃げたのに……。
自分が信じられなかった。
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