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第3話

「1人で入れる」 海斗は服と下着を持って風呂場へ逃げる。 直ぐに風呂場は分かった。 そして、身体を確認する。腰が痛いし、尻に違和感。 痛いわけではないけれど、何かしらの違和感を感じた。 海斗は風呂場で座り込む。 嘘だろ……。 何、初めて会った相手と寝てんだよ俺……。 ショックが大きい。 大輝と名乗った男性……初めて店で会った時に1人目立ってカッコイイなと思った。 日に焼けて……南の男って感じで。 風呂場にある鏡で自分を見る。 色白で……背は高いが彼みたいな筋肉質ではない。 モデルをやっているから顔も綺麗な方だしスタイルだって……。 でも、そんなに売れている訳でもなかった。 売れないモデルは金も安い。都会で生きていくのには金がないと無理。 両親は離婚していて、互いに再婚しているから、自分は邪魔者扱い。 先に家族だったのに後から家族になった者達を大事にする両親。 1人で何とか生きようとしているけれど、上手くいかない。元々、人見知りで…… 友達も少なかった。 この島で仲良くしてくれたハナみたいな友達は出来なかったのだ。 どうしてこんなに不器用なのだろうか? やっと、大きな仕事が舞い込んで来たと思ったら条件付だった。 お金を出してくれると言った男は男色家で有名な人だった。 「馬鹿みたいだ」 海斗はシャワーを浴びて、服を着ると大輝に見つからないようにコッソリと部屋を出た。 どこにも行く所がないくせに……。 フラフラと歩いていると「昨日の兄ちゃんやないか」と声をかけられた。 「凄く酔っ払ってたけど大丈夫だったみたいだな、大輝が面倒見てくれるっていうから店に置いてきたけど」 おじいさんに年齢が近い男性が申し訳なさそうに言う。 面倒……みてくれたよ……しっかりと!! 「どこいくんだい?観光するなら、いいとこ連れていこーか?星の砂を年の数だけ拾うと幸せになれる浜がある」 その言葉に海斗は反応した。 ハナと行った場所だ。 「行きたい」 ハナに会えるかも知れない。 でも、昨夜のおじいさん達の話で若い子は都会に行きたがるから寂しいと。 ハナは自分と同じ年。もしかして、島を出たかも知れない。 おじいさんの案内で百合ヶ浜に来た海斗。 白い砂浜……透明な水のその先には空と混じる碧色……。 あの夜のポスターそのまま。 海斗の幼い頃の記憶のまま……。 ハナ。 会いたい……いま、どうしているだろうか? 自分を覚えていてくれてるだろうか? 「俺……小さい頃、住んでたんです……おじいちゃんが島の人で」 でも、亡くなってしまった。だから、島に来る事がなくなったのだ。 元は父親の故郷だった。父親は島があまり好きではなかった。 こんなにも綺麗な場所なのに。 「ああ、昨夜言ってたなハナと仲良かった子だろ?」 ハナ!! 海斗はおじいさんを見る。 「ハナを知ってるんですか?ハナは?ハナはまだ島に」 島にいるの? まるでしがみつくみたいにおじいさんに詰め寄る海斗。 「何言ってるが?ハナと昨夜一緒だっただろ?」 「は?」 昨夜一緒? 海斗はキョトンとなった。 「大輝んとこ居たんだろ?」 大輝……? えっ?えっ?昨日の?あれ? 「名前が」 「ハナは家名だよ、ヤーナーって言って先祖の名前を受け継ぐんだ」 真後ろで大輝の声がした。 慌てて振り向く。 「居なくなるから探したぞ……」 「ハナ?」 日焼けした肌と自分よりガタイが良い身体。 小さい頃は海斗の方が大きかったのに。 「そうだよ!お前、俺の事忘れてたな」 ちょっと怒ったように腕を組む。 「ちが……だって、……だってわかんないよ、大人になってるから」 「お前だって大人になってるだろ?」 大輝はそう言って笑った。 その顔が幼い頃のハナと同じだった。 紛れもなくハナだ。 「ハナ……」 海斗はポロポロと涙を零した。 「わあ!!待て泣くな!怒ってないから」 慌てる海斗。 「あーあ、泣かせて!」 おじいさんにからかわれる。 「うっせーおじい!海斗は俺が連れて帰るから帰れよ!」 キッ!と睨む。 「はいはい」 ニヤニヤしながらおじいさんは去って行った。 「カイ……泣くなって……」 大きな手が頭の上に置かれた。 そうだ……泣いたらいつも、こうやって頭を撫でてくれたんだ。 海斗は大輝に抱き着いた。 「ハナ」 凄く凄く会いたかった。 大輝も泣いている海斗をギュッと抱きしめる。 「お前が東京でモデルやってるの知ってたぞ、雑誌とか本土に行って買ってたから」 海斗は驚いて顔を上げた。 「だから、昨日、店にお前が来てビックリした……もう、来ないって思ってたから……俺の事、忘れてるだろうなって」 「忘れてない……島も……ハナも……」 分からなかったのは大人になっていたから。 「うん、昨日泣きながらそう言ってた。ハナに会いに来たって……ハナに会いたいって」 大輝は微笑む。 「だからたまらず、抱いてしまったけど……居なくなるから、怒ってるのかな?って」 海斗は首を振る。 「ビックリして……金の代わりに男に抱かれようとしてた自分が嫌で逃げてきたのに……ハナと知らないで見ず知らずの男に抱かれたって思って」 「お前……もう、酒飲むな」 「えっ?」 「記憶無くなるから……昨夜、俺ちゃんとハナだって言ったんだぞ?そしたら、お前からキスしてきてさ……あとは……俺の部屋で……すげえ、大胆でビックリした」 マジですかあ!!!! 海斗はその場に座り込む。 うわあああ!!死ねる!! 「海斗が他の野郎と寝なくて良かった」 大輝も座ると海斗と同じ目線になる。 「約束覚えてるか?」 「約束?」 「結婚しよーって」 「……ハナ」 「俺はあの時子供だったけど、本気だったんだ……それは今でも変わらない」 「ハナ」 海斗はまたポロポロと涙を零す。 「星の砂拾って帰ろ?幸せになれるぞ!」 「うん」 2人で年の数だけ星の砂を拾った。 「ずっと、家に居ろよ……」 「うん」 海斗は大輝の手を握る。 「店……手伝えよ?置いてやるから」 大輝も握り返す。 「うん」 「ちゃんと指輪もプレゼントするから」 「うん」 2人で手を繋いで浜を歩く。 あの夜にポスターを見なければきっと、ここには来ていなかった。 あの海が呼んでくれた。 きっと……ハナも呼んでくれてたんだ。 海斗は空と混じり合う海を見つめて微笑んだ。

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