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第9話
「もしかして緊張してます? 正道さん」
前から約束していた休日。実家までの道のり、そわそわと落ち着かない恋人が新鮮で、怒られるのも覚悟で聞いてしまう。
「……そりゃあな。オマエを育てたおばあさんに会うんだもん」
「生きてるうちに早く会いたいって、楽しみにしてたから大丈夫ですよ」
社会人になって数年後、正道のことを祖母に話した。はじめは驚いていたけれど、年の功とはいったもので、わりとすぐ受け入れてくれた。
自分の子に先立たれた上、孫は男性と暮らしたいと言うなんて、波瀾万丈にも程があるから伝えなくてもいいんじゃないか。と言ったのは正道だった。
でもきっと祖母は、自分がいなくなったら天涯孤独になってしまう孫を一番心配している。
だから俺は、ちゃんと愛する人をみつけて、その人も俺を愛してくれているという奇跡みたいな事実をちゃんと伝えたかった。
案の定、祖母はとても喜んでくれた。正道が「真智子さん」なんて呼ぶから最後はデレデレになっていたし。
「よかったな。やっぱり、会いに行って」
「そうですね……えっとお願いがあるんですけど」
後ろ姿に投げかけた決死の言葉に、振り向いた顔がみるみる歪んで泣き顔になった。慌てて駆け寄ると、ボスンと胸を殴られる。抱きしめると嗚咽が漏れた。
「そんなうれしい言葉が聞ける人生だなんて、思ってもみなかった」
そんなの俺もですよ。
手を繋ぎ、あなたと一緒にいられる人生なんて、夢のまた夢だったから――でもこれからは、ずっと。
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