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2*性描写
瞼を半分下ろしたまま、ブラッドは汚れた手で下履きをすべて下ろしてベッドの下に落とした。背を丸めて横向きになり、片方の脚を折り曲げる。股の間から腕を通して、精液に濡れた指先を尻の狭間に滑らせると、しばらく触れられていなかったそこは指の腹に吸いついてひくりと震えた。
「……く、ぅ」
本当は香油で丹念に濡らした方がよかったが、取りに立ち上がるのも億劫で、ブラッドは自身の精液を閉じた窄まりに擦りつけて中指の先を潜り込ませた。入れた途端、入り口はきゅっと異物を締め上げる。苦しさはなく、指をゆっくりと挿入していく。
自身の指に感じる腸壁の凹凸をゆっくりとなぞる。触れる粘膜が熱い。指を増やし、慣らすように何度か抜き差しすると、括約筋が緊張を解いていくのがわかる。
何度もクバルに抱かれた身体は、どこが気持ちいい場所なのか熟知していた。満たされない欲求が導くままに、ブラッドは硬い指の腹でペニスの裏側の辺りを軽く擦った。
「っん、……は、あ……っ」
じんわりと甘やかな感覚が下肢に広がって、腰が無意識に揺れる。その一点を何度も優しく押すと、一度精を吐き出したペニスは簡単に芯を取り戻して硬くそそり立つ。また、擦って射精したい。前立腺を刺激しながらペニスを扱かれると、両方の快感にすべての意識が奪われて、訳がわからなくなる。けれどそれは苦痛ではなくて、何度も求めてしまうほど気持ちよかった。
「う、ぅ………っ」
左の指先で身体の内側を愛撫しながら、ブラッドは下敷きになって少し痺れた右手を、下腹で反り返って涎を垂らす屹立へと導いた。赤く爛れた皮膚の先に指はなく、左手と同じように手筒を作って扱いて、ということはできなかった。だから掌に擦りつけるくらいしか、少しでも快感を得られる方法はなかった。
もどかしくて、涙が出そうにる。前も後ろも一緒に触って絶頂まで駆け上がりたいのに、こんな時ばかり不自由さが身に染みる。
「んっ……クバ、ル……ッ」
横顔を毛皮に押しつけて深く息を吸うと、自分とクバルの体臭の混じった匂いがする。目を瞑り、かくかくと腰を揺らしながら、愛しい男の手の感触を思い出す。
「……っクバル……いき、た……ぁ、んっ」
背後から被さって、節くれ立った指が後孔を弄り、熱い掌がペニスを激しく擦り上げる。汗の流れる項に落ちる熱い吐息、時折肌を叩く勃起した雄。ブラッド、と名前を呼ぶ、自分に欲情しているとわかる濡れた声。煮立った頭は思考を放棄して、すべてをこの男に委ねようとする。
あの掌に触れて欲しくてたまらない。切羽詰まった声で、もう一度クバルの名を呼ぶ。
「……ブラッド?」
静謐な声は、荒い吐息と濡れた音のみ響く天幕の中でよく聞こえた。快楽に貪欲な頭が生み出した幻聴だ。都合がいい。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を響かせて、後孔を激しく擦った。少ししこった膨らみを指の腹でぐりぐりと押すと、痛いくらいに膨れ上がったペニスの先からだらだらと透明な滴が溢れた。先走りを伸ばすように掌で亀頭を撫で擦り、唯一手に残った親指の先でカリ首をぐりぐりと弄る。
頭の奥が痺れて、ぼうっとしてくる。何とか、いけそうだ。そう思った時、自分のものではない、硬い指先が身体の内側に潜り込む感覚があって、ブラッドは目を開けた。暗闇だったが、すぐ傍に、人の気配がある。
「え、……ぁ、アっ!」
ぐり、と敏感なところを強く抉られて、意図せず大きな声が出た。慌てて首を捻って仰ぎ見ると、ベッドに乗り上げた男がブラッドの後ろに腕を突いて見下ろしていた。
「火も灯さずに……俺の声も聞こえなかったか」
言葉尻に興奮が滲んでいた。暗闇の中で深紅の瞳は、欲望に濡れているように見えた。視線を滑らせると、男の下履きがすでに前を膨らませているのが、闇に慣れた目でわかった。幻聴ではなかった。
「ク、バル……入れて、くれ……ッ」
はあはあと荒い息を抑えることもせず、目の前の望んだ人物に懇願した。肉壁がうねり、後蕾がきゅっと引き絞って自分の指とクバルの指を締めつける。
久しぶりだとか、任務はどうだったとか、怪我はないかとか、色々と確認したいことはあるのに、後回しでいいと思えるほど身体は飢えている。
今すぐここにクバルが欲しい。もう何日していない? いたずらに触り合い、期待は高まるばかりで、完全に満たされることはなかった。
クバルだって同じ筈だ。高揚を抑えきれず、ぎらぎらとひりつくような視線で、ブラッドの痴態を舐め回している。ふー、ふー、と獲物を前にした凶獣のような息を繰り返して。
「今すぐ抱きたい……けれど」
「っ……?」
「その前に、見せてくれ……お前がひとりでしているところ」
くちゅ、と水音を立てて指先が入り口近くをなぞり、それから深くまで沈んだ。喉が渇くような激しい獣欲を向けられて、丸めた背筋にぞくぞくと震えが走る。
「今、見ただろ……」
「もっとよく見たい」
「ん……ッ」
左手を掴まれ、ぬかるんだ後孔から自分の指が抜け出た。そのまま張り詰めた股間に導かれ、ブラッドは惚けた頭で理解する。この男は欲深い。
すでに全身が熱くて汗とそれ以外の液体に濡れていたが、体温は沸騰したようにますます上昇していく。向けられる期待と欲望の眼差しがそうさせる。
自慰を見せることに躊躇いはなかった。ごろ、と体勢を変えて仰向けになった。膝が胸につくまで折り曲げ、脚を広げると、陰部はすべてクバルの目の前に晒される。
「しっかり、全部見てろよ……」
喉を鳴らす音が聞こえた。汗と白濁に汚れた腹部、湿って色を濃くした下生え、反り返り太く血管を浮き上がらせたペニス、射精を目前にしてきゅっと吊り上がった双珠、そこから繋がる柔らかな会陰、クバルの指を咥え込み、縁を赤く色づかせた奥の秘蕾。
赤い瞳が露骨に下肢を視姦するのを感じて、昂奮で全身から汗が噴き出る。羞恥はすでに砂塵のように吹き飛んでいた。ブラッドは目を伏せ、自由な左手で竿を握り、見せつけるようにゆっくりと扱いた。
「う、ぁ……っ」
即物的な悦楽。もう何度、絶頂する直前まで上っただろうか。膨張しきったペニスにこれ以上刺激を与えるのは辛くて、けれど度を越した快感はあまりにも心地よくて、擦り上げる手はとまらない。もっと激しくすればすぐにでも射精できるだろうが、そうしなかった。びりびりと肌に感じるクバルの視線の重圧が、そうさせた。指の先から溶けていきそうな感覚がずっと続いている。
「っひ、あぁ、……あ、っクバ、ル……」
無意識に、喘鳴とともに男の名前が零れ落ちる。はあ、と濡れた吐息が頭上に聞こえた。同時に、身体の中に埋まった指が腸壁を擦り上げた。決定的な箇所には触れず、掠める程度にして過ぎていく、意図的な動きだ。無沙汰になっていた右手も、脚の間に持っていく。
「……あ、うぅ、っ……うーっ」
左手で竿を扱きながら、右の掌で亀頭を擦る。折り曲げた足の爪先に力が込もってぎゅっと丸まった。わずかに掌を丸めて、先端を包み込むようにしてぐるぐると撫で擦れば、腰がぞくぞくと震えて達しそうになるのを、ブラッドは根本を強く押さえてたえた。閉じた瞼の裏がじわりと染みて、伏せた睫毛が濡れていく。
腹の中は、早くクバルが欲しいと淫らに収縮を繰り返し、遠く質量の及ばない指を食い絞める。ゆらゆらと腰が揺れるのも抑えることができない。
まだか、まだか、と気が急いて、瞼を持ち上げたブラッドは濡れた目を瞬かせた。
「っく、……は……ぁ、っ……」
眉間に険しい皺を寄せて呻くクバルの表情に、釘付けになった。ブラッドの正面に膝を突いてこちらをじっと見据え、彼の片手は、押し下げた下履きから飛び出した屹立を握り締めていた。血管を浮かせ、先端から露を滴らせた勃起を、ブラッドと同じように緩慢な動作で扱いている。匂い立つ雄の色香に、もう我慢できなかった。
「ッ、――!」
とぷ、と握り締めた亀頭の、先端の割れ目から白濁が溢れる。あ、あ、と情けない声が唾液と一緒に唇の隙間から零れ、掌にはねっとりと熱い感触が広がっていく。辛抱して、辛抱した先にある絶頂は格別で、視界がぐるりと反転したまましばらくの間、ブラッドは指先さえ動かせずにいた。
「ブラッド……」
けれど、すぐに衣擦れの音がして、後孔にぴたりと熱いものが触れたと気づいた時には、その熱杭は肉襞を掻き分けて奥まで入り込んできた。
「ぁあ、あア……ッ」
もどかしさがゆっくりと満たされていく。あるべきものが収まったような安堵。
尻肉に、案外に柔らかい下生えが擦れるのがこそばゆい。そこからさらに押し込まれて奥を突かれると、苦痛と紙一重の快感が訪れることを知っているブラッドは密かに身構えたが、予想した衝撃は襲ってこなかった。
クバルはブラッドの身体の横に腕を突いて、身体中の熱を逃がすように胸を膨らませながらはあはあと荒く呼吸を繰り返している。解けた黒髪が厚い肩から滑り落ちた。
「っん……おい、大丈夫か」
「……、久しぶりだから、すぐに、出そうだ」
ぽたりと首筋に冷たい汗が落ちてくる。押し殺した低い声は、快楽というよりも痛みにたえているように苦しげで、瞼を軽く伏せた表情は険しかった。
「自分でしなかったのか」
「してない……あの朝、お前がヘリオススを出て行った後から」
お前に触れるまで我慢していた、と吐息混じりに白状するのを聞いて、愛しさが込み上げてくる。健気な男だ。ブラッドは、クバルに会うのを待てずに毛皮の残り香を嗅ぎながら自慰に耽ったというのに。
「我慢せずに、いけよ」
首の裏に腕を回して引き寄せ、吐息が触れ合う距離で囁いた。同時に逞しい腰に脚を絡ませて強引に引き寄せると、クバルが息を詰める音がした。
「っ……!」
ペニスがわずかに抜け出て、穿ち始める。
ずちゅ、ずちゅ、と濡れた音を立てて腸壁を激しく擦り立てる。ブラッドは無意識に肉環を狭めて抽挿を受け入れた。間もなくクバルがぐっと腰を押しつけたままブラッドの身体の横の毛皮を握り締め、動きを止める。中が熱いもので濡れる感覚に肌が震えた。
「ンっ……」
「……っはあ、はーっ……」
ブラッドの首筋に顔を埋めてクバルはしばらく呼吸を整えていた。触れた胸から走る鼓動の音が伝わってくる。汗の匂いを嗅ぐように深く吸い込まれ、ぞくぞくと震えが走る。
「もう一回……」
「ん……何度でも、やればいいだろ」
「もっと長く、お前を抱いていたい……」
乾いた唇に濡れた感触が這った。熱い舌はブラッドの下唇を舐めてあわいをなぞって開かせ、侵入してくる。薄目で見ると、冷めない興奮を湛えた赤い瞳が光っていた。舌を根から捉えられ先端を吸われると、身体の奥が再び疼き出す。
ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てながら唇を貪った。夢中になっているうちに、硬さを取り戻したクバルのペニスが腸壁を圧迫する。
ゆっくりとクバルの上体が離れて、中に埋まっていた熱杭も離れて行くのを追うように肉襞が絡み付く。抜け出る手前で留まったペニスは、ブラッドの中の浅いところを小突く。
「ぁっ……あ、ぅ」
「腰が揺れている」
「ん……っ」
前立腺を突く間隔はやたら長く、そして残酷なほど優しくて、自然と腰を揺らすのも仕方のないことだった。じわじわと与えられる快感は焦れったく、干した杯に一滴ずつ酒を垂らすように、ゆっくりと蓄積されていく。
「もっと、激しくしろよ……っ」
たえきれなくて、上擦る声で熱願した。もっと性急に、荒々しく抱いて欲しかった。そうでなければ何日も燻り続けた欲望は、鎮火することも燃え尽きることもできないまま、腹の奥に溜まったままだ。
「駄目だ……すぐに終わりにしたくない」
「っ……酷い、奴だ」
「我慢、できるだろう」
ぐ、ぐ、とペニスの裏の辺りを柔らかく押し込まれ、浮遊感に似た感覚に包まれブラッドは目を細めた。唇を舐める。触れてもいない自身の雄が、二度も射精をしたのに再び持ち上がるのを感じる。
「ぅ、っ……」
赤黒く充血した亀頭がぴくぴくと震え、先端の割れ目から透明な蜜が滴る。その滴が裏筋を伝って陰嚢まで下りる感覚ももどかしく、たえるように吐いた吐息も震えていた。
我慢できない。ブラッドはゆっくりと左手を下肢に伸ばし、勃起した雄を握る。身体の内側からではなく、男性器から直に得られる悦び。
「ブラッド……その、顔」
「ッ……、何だよ……」
「いや……お前はすぐに、そこを触ろうとするな」
なぜか興奮気味にクバルが声を落とした。竿をしっかりと握ってカリ首の辺りまで一緒に擦り上げ、ブラッドは憮然と見上げる。
「普通は、ここを弄るだろ……っ、お前も、そうだろうが」
「お前は触らなくても気持ちよくなれるだろう」
「さっき、自慰を見せろって、やらせたのはお前だ、クバル」
「十分に見たから……今度は、違う方に集中しろ」
そう言ってクバルはブラッドの左手をやんわりと取り上げ、淫らな液体で濡れた指の間をぎゅっと握り込んだ。合わせて右手も押さえられ、一緒に顔の横に縫い付けられる。これでは自分でペニスを触れない。
「おいっ……あ、ぁ……っ」
抗議の声は喘ぎに変わった。浅い場所を刺激していたペニスが、ずるりと肉襞を捲りながら深くまで潜り込んでくる。濡れた尻肉と熱い肌がぶつかって、すべて収めたのだとわかった。
その圧迫感と充足感。身体の中でどくどくと脈打つ、自分でないものの存在。熟れた肉壁が悦んで絡みつき、うねり、もっと奥へと取り込もうとする。
「前を弄っている時よりも……さっきよりも、ずっといやらしい顔をする」
「はぁ、あ……知ら、ねえよ……そんな、こと」
「特に、奥を擦ると」
「な、――ぁああっ……!」
触れた尻肉にぐりぐりと腰を押しつけられ、ブラッドの足先はびくびくと跳ねる。上擦り引っくり返った声が喉から迸った。
最奥の行き止まりを、硬く張り出した亀頭が突く。擦るように腰を回されるとたまらなかった。
最初そこを攻められた時は、痛くて苦しいばかりだったのに、今では気がおかしくなるほどの強烈な快感を得ることができた。自分の身体がバラバラに離れてしまいそうな恐ろしい感覚だったが、ペニスを扱くよりも、前立腺を刺激するよりも遥かに勝る、法楽があった。
「っい、アあ゛っ……! ゃ、……ひっ!」
越えてはならないそこを抜けようと、クバルは腰をびっちりと密着させたまま優しく下肢を揺さぶってくる。クバルのペニスだとそこまで届いてしまうのだ。
自慰で自分の尻に指を突き入れて擦るのとは、まったく違う行為だ。自分の指では、こんな奥まで届かない。せいぜい前立腺を弄るくらいで、こんな気が狂いそうなほどの悦楽は生まれない。
「……ッや、そこ……! ぁあ、アッ……いや、だ、ぁ、抜け……ッ!」
「ここだと、何度も……いけるだろ……っ」
「ッぁああ゛っ……む、り…ぃ……っ」
情けない嬌声が口からひっきりなしに漏れて、飲み込めない唾液が唇の端から溢れて顎を濡らす。口を塞ぎたくても、掌はしっかりとクバルに押さえられていた。涙に歪む視界に、大きくクバルの目元が映った。肩に、胸に火傷しそうな熱を感じ、唇を熱く濡れたものが這う。下肢がぐずぐずに溶けてなくなってしまいそうなのに、肌に触れる温もりと唇を濡らす熱さは、混乱する頭を他所に安堵を与える。
いきたい。達したいのはそこじゃない。ペニスを擦って射精したい。そう思うのに、強張る太腿はクバルの腰をぎゅっと挟み込んで離そうとしない。
「っあ、あ、ぅ……っくる、っ――ああアッ……!」
一際強く奥を穿たれて、正体がわからなくなるほどの凄まじい快感が頭の中を真っ白にさせた。ガクガクと腰が震え、丸めた爪先は吊りそうに思えた。ペニスを咥えた入り口がきつく引き絞って、中の肉環は蠢動し、食い絞まる。
「っん、ン゛……!」
唇を大きな口に食まれ、余すところなく嬲られた。熱い舌先が強張るブラッドの舌を絡めとり、飲み込もうとするように吸われる。その間も強烈な快感の波は少しも引かなくて、いつの間にか目尻から零れる涙にブラッドは気づく余裕もなかった。
「んぅ、う……は、……んっ……」
「ふ、……っ」
薄い唇の表面をなぞる舌が蠢いて、顎を、頬を、目元を擦る。慰め合う獣のように優しく、無遠慮に舐められる間、少しずつ呼吸は落ち着きを取り戻すが、恍惚境から意識が戻ってこない。ずっとふわふわとした浮遊感が消えなくて、焦点は定まらず、目を開いているのにどこを見ているのか、わからなかった。
「ブラッド……」
「ん、ン……っ」
左の掌に冷たい空気が触れたような気がした。代わりにざらりとして熱く湿ったものが、首筋を撫でていく感覚に肌が粟立って、犬の鳴き声のようなものが喉から出た。これはクバルの手か。手が胸を、腹を撫で下ろすにつれ、ブラッドは肌を震わせた。なぞられる度に、身体の奥が熱く濡れる。まだ絶頂にいる。
「ブラッド……?」
「ん……ゃ、あっ……!」
血管の浮く下腹をなぞられると、内腿がびくびくと震えて射精した、ような気がした。けれど濡れた感覚がない。錯覚なのか、わからない。
しばらく忘我の狭間を漂っていた。徐々に意識が浮上してきて、自分の身体の感覚が明確さを帯び始めた頃、ブラッドはようやくクバルが不安そうに見下ろしていることに気づいた。
「クバル……?」
「……戻ってきたか」
はっとして視線を巡らせた。首筋に落ちるクバルの汗。硬く握り締めた毛皮。下肢から濡れた音がして、クバルがゆっくりと身体を離して腰を引いていく。肉襞は、名残惜しむように絡みつく。ぬぽ、と音を立てて抜け出たペニスは精液と腸液で濡れ、そして赤黒く充血し限界まで膨張したままだった。
「お、前……いってない、だろ……」
喉から絞り出した声は、自分でも驚くくらい酷く嗄れていた。
「俺は、いい……お前が心配だ」
唸るように押し殺した声は、まだ冷めない興奮が残っているように聞こえた。ブラッドは汗に濡れた掌を、クバルの腕に伸ばす。触れた肌は熱く、湿っていて、ブラッドの掌にも伝播していく。
今みたいに絶頂が長く続いて一瞬意識が飛ぶ経験は、初めてではなかった。ペニスで射精して極めるよりも遥かに凄絶で、身を掠われそうになるほどの悦楽に支配される。けれど精液のように尽きることなく、一夜に幾度も恍惚に至ることができるのだと、過去の経験で知っていた。
滅多になかったが、この尋常でない絶頂は一度迎えるだけで酷く息切れてくたくたになる。だから、長く抱いていたいと言ったくせに、クバルは体力を消耗したブラッドを気遣わしげに見るのだ。
「それ……自分でどうにかする、つもりか?」
「……そうするしか、ない」
「言っとくが俺は……お前と違って、見ているだけじゃ、嫌だからな……」
「……俺の都合のいいように捉えていいのか?」
自分が何を言っているのかわかってるのか、と熱い吐息が落ちてきた。もちろん理解しているつもりだった。
だって、五日――いや、十日以上その肌に触れることができなくて、焦らされて、もどかしい思いをして、ようやく陶酔に浸れた。けれどいつ、またそれが取り上げられるかわからない。積み重なった飢餓感は、意識が霧散するくらい執拗に、丹念に抱かれて、初めて埋めることができる。
「いいから、抱けよ……すぐに終わりにしたくないって言ったの、お前だろうが」
水があれば甕ごと飲み干したいほど喉が乾いていたが、それもクバルに口づけられればすぐに満たされる。首を掻き抱いて、腿を腰に擦り寄せた。明日は何の緊急の用も入らないようにブラッドは願った。きっと足腰が立たなくて、馬に乗ることも、真っ直ぐ歩くこともできないだろうから。
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