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第3話 ※
◆◆俊
キスされた。
永遠に童貞の自分がだ。そばかすがあっても、なくても変わらず平々凡々と生活しているのにあんな美形に転がされてたまるか。
その気持ちはあの頃とちっとも変わらない。
いいな、と思う子はことごとく振られてしまう。なぜならば全員、隣に絡みついてくるプードルのような千種有里に夢中になってしまう。唯一付き合えそうだった、クラスメイトの委員長なんて、ユーリの部屋で裸になって横たわっていた。
並外れた容姿と甘い顔立ち、屈託のない微笑みに皆が騙されてしまう。
キスが尋常じゃないくらい、上手かった。
涎と精液にまみれながら、もっと強い刺激を求めて狂う自分がいた。王者のように振舞うユーリに、瞼を腫らしながら哀願して腰を動かしていた。
「勘違いだ、たぶん」
爛れた記憶が蘇ると、ぶわりと顔面が真っ赤になってしまう。心臓が早鐘を打つように鳴りだし、意識してしまう。
オムツかえた奴だぞ? ありえない。
そう思っても、精を吐きだした仲へと進展してしまっている。おまけにユーリの逞しい胸板の感触がまだ背中に残っている。
抱かれてしまう。
だめだだめだだめだ。相手は年下。幼馴染。男だ。ましてや兄として慕ってくれている。大事な弟だ。
ぶんぶんと首を振って記憶を掻き消した。寝てしまおうと布団をかぶると、チャイムが鳴った。インターホンの画面を確認すると、絶世の美形が微笑んでいる。
『しゅんちゃ〜ん、遊びにきちゃった♡』
てへへと笑いながら、満面の笑みを浮かべている。
う、この笑顔、眩しいな。
施錠を解除すると、すぐにノックがなるので悩むひまもなく扉をひらく。黒のスキーニーパンツを履きこなし、短髪の銀毛がふわふわと揺れていた。
「どうした?」
「幽霊怖いんじゃないかなって、遊びにきちゃった♡ しゅんちゃん、チョコレートとお酒を持ってきたよ♡ 明日も早いから泊まらせてくれる?」
首を傾けて、精巧なガラス細工のような瞳が潤んで光る。ずるい。この顔でお願いされると、だめだと断れない。
「……飲みすぎるなよ」
「わぁい♡ しゅんちゃんの好きな日本酒も持ってきたんだ。あとね、他にも色々と玩具持ってきた♡」
「ふーん」
ボードゲームか何かだろう。俊はキッチンに足を運び、ユーリは玄関の鍵を慣れた手つきで施錠した。
「おつまみも買ってきたから、のも♡」
「はいはい、お猪口だしとくな。ほら」
九谷焼のお猪口と徳利を食器棚からとりだして、ワンルームに戻ると天然木の丸みを帯びたローテーブルに置いた。ユーリははしゃぎながら日本酒をあけた。
「注いでおくね♡ あとお皿もくれる?」
「はいはい、わかった、わかった」
立ち上がって、キッチンに戻ると屈んで棚から取り皿をだす。注文が多いのはいつものことだ。慣れているので、しょうがない。
「じゃ、かんぱい!」
「はい、乾杯」
飲むと芳醇にして、優美な味が口のなかに広がる。なめらかで玲々 とした味わいでどんどんと喉を通ってしまう。
「ふふ、しゅんちゃん飲み過ぎないでね?」
「でも、この酒、すごい旨いな。止まらない」
「でしょ? 飲みやすいって教えてもらったんだ♡」
「ふーん、そうなんだ。ありがとう、美味しい」
にこと笑うとユーリが目を輝かせて喜んだ。その顔は天使のような純白の美しさが浮き出ている。
やっぱり気のせいだ。ユーリに欲情なんてしない。
視線を外してまた酒をあおると、ユーリがポケットから桜色の小さな箱を取り出した。
「しゅんちゃん、バレンタイン♡」
「ありがとう。んん? 手作り?」
「うん、たっぷり愛をこめたんだ♡」
ふわふわとした気分で飲んで食べて、いつのまにか深い眠りに襲われる。ふと、ぬるついて包まれる感覚に目が覚めた。
「あ、しゅんちゃん、起きた?」
じゅるじゅると音を立てて、天使のような顔をしたユーリが上目遣いでみてる。
「なに、これ?」
ぱっと半身を起こそうとすると、体が動かない。金属の冷たさが手に伝わって、剃刀の刃に似た肌寒さに身体が震えた。足は折り曲げられ、太腿にベルトをくくりつけて股間が大きくひらかれている。
「なにって、しゅんちゃんが女の子の気持ちがわかんないっていうから、教えてあげてるんだよ?」
「お、教えてあげてる?」
「ね?」
ユーリがにこにことスマホの動画をとりだしてみせる。酔った自分が映し出され、チョコを放り投げるように口にいれている。
『催淫チョコ? 俺も女の子みたいに気持ちよくなれるのか?』
『うん! しゅんちゃん、お尻もしてみる?』
『おしり? おしりってなんだよ、あはは、あはははははは。うん、やるやる』
「ね?」
「ね? って、こんな、俺、酔ってるんだけど! え、待て。指、ゆ、ゆび!」
「うん? 二本まで拡げてるよ。ゆっくり勉強しようね。しゅんちゃん、きょうは最後までするよ♡」
ユーリはニコッと笑い、じゅっと赤い唇で亀頭をすった。
「最後って……」
「おちんちんを挿れるんだよ。したいんだよね?」
「え、まって、やだよ……」
「そうだよね、まずは乳首も含めて全身を可愛がってあげる。そばかすもひとつひとつキスしなきゃだめだ。そばかす三つ増えたの知ってる? そんな顔でしゅんちゃん、女の子を抱こうとしてたんだもん、いっぱいエッチしようね♡」
「あ、あ、やめ、なん……で」
「ほら、ここ、ぐじゅぐじゅだよ? お尻のあな、いっぱいひろがってる。のばして、ひろげて、ぱくぱく、ひくひく生き物みたいで可愛い♡ ぐずぐずに濡らして、たくさん柔らかくするね♡ ねぇ、ねぇ、しゅんちゃんのここに僕のおちんちんはいるかな?」
「やだ、やだよ、そんな、無理だって……」
「あ、そういえば玩具きらい? たくさんあるよ♡」
きゅるるんと煌めく顔で微笑みを浮かべ、ローションを垂らして、どこから出したのかローターをするりと挿入した。小さな丸みはすぐにめ込まれ、敏感に感度を上げていく。
「ぐ、やめ、ろ……」
「だーめ! しゅんちゃんのあな、ゆるゆるにしてあげる♡」
孔をひろげながらも、ナメクジが這うように全身を舐めつくし、ふにふにと唇を押し当てて、耳の穴まで愛撫していく。耳朶をしゃぶり、丹念に乳輪を揉んで、舌先で尖った乳頭をつつく。腹からは、肉壁を愛撫するような振動が増して、灼熱した快楽を誘ってくる。
気が狂いそうな悦楽にだらしない声が口からでてしまう。
「あ、あ、あーー……」
「しゅんちゃん、ここに挿れたらもう女の子を抱かないって約束できる? ちゃんと守れる?」
「いやだ、やだ、や、ぁッ」
柔らかくほぐれた後孔を広げて、熟れた皺をさすりながら、ひくひくともの欲しそうにうねる孔からローターを引き抜く。
「欲しい?」
「んん、ん、ぁ、あ」
同意を求めるような問いに俊は首をふる。ユーリは悲しげな表情でため息をついた。
「そっか。じゃあ、ここにもえっちなクリームを塗りこんであげる。女性用っていうけど、俊ちゃん女の子になりたいから気持ちよくなれるかな? たっぷりつけるね」
そばにあった缶から乳白色のクリームをすくい取って、ひくつく場所へこすりつけられた。じんわりと熱が灯り、甘い痺れが沁み込んでいく。
「あ、あ、あ、だめ、だめ、だめぇ」
「だめじゃないよ? ちゃんとレビューにも二人で気持ちよくなれたって書いてたもん。ああ、でも個人差もあるからね。しゅんちゃん、どう?」
「ひぃぁ、やだ、やだ、やめろお」
「しゅんちゃん、ここ、まだ気持ちよくならないけど、いれちゃうね? きょうからゆっくり開発していくから許して?」
「いれるな、いれるな、だめ」
「なんで? 僕のこときらい?」
ひくひくと物欲しそうに動いた半開きの孔に、弾けるように膨らんだ雄をあてられる。腰を少し動かせば交われる。そのぐらい分かる。受け入れる姿勢でしかない自分に、ユーリは銀の睫毛をふせて、涙で濡れたそばかすにキスを繰り返した。
「きらいじゃない……、でも、んんっ」
「でも? ここ、つんつんするだけ。ね? だめ?」
剥き出しになった柔らかな腹をなでて、ユーリが腰を少しだけ前にすすめ、先端を押しつける。孔が花びらのようにひろがり背骨がしなった。
じわりとした甘い悦楽が忍び寄る。いや、影にかくれて襲ってくる。体の奥底から期待と歓びが膨らんでしまう。
いやだ、このままじゃ、同じだ。
ぐじゃぐじゃになった顔を横にして、押し殺した声が俊の口から漏れた。
「……セックスしたら、俺を捨てるだろ」
「え?」
その言葉にユーリの動きが、ぴたりと止まる。熱が冷めていくような気がした。
「周りの女みたいに、ポイ捨てするだろ」
「しゅんちゃん、知ってたの?」
「知ってるよ、おまえ、女絶やしたことないしな。コーヒー屋の子もそうだし、いまもセフレがいるのも知ってる」
「しゅんちゃんの為にしてるんだよ?」
「はぁ? なにいって……っ、もういい、早く終われよ。それで、おまえとはおわりだ。もう来るな」
「しゅんちゃん、やだ。やだよ。終わりたくない。しゅんちゃんが好きなんだ。ずっと好きだった」
思わず、腰を前にすすめて、俊に噛みつくようにくらいつく。あ、あ、あ、とだらしない声が漏れて、震えながら受けとめ、そばかすに油汗が浮いた。その姿に欲情して、桃色に色づいた雄が深く突き上げる。
「あ、はぁ、ッぁあ……」
「かわいい♡ 苦しそうな顔、初めてみる♡ しゅんちゃん、愛してる♡ 捨てないよ、ずっと一緒だから、安心して♡ ん、気持ちいい、柔らかくて、包んでくれてる♡ すき、すき、すきだよ、しゅんちゃん、大好き♡」
「……ぁ、や、や、そこ、やめ」
「あ、そっか♡ とんとんだよね? ごめんね? ここ、突いてあげる」
露わに開かれた股間をぴったりと繋いで、腰を掴まれると奥深くへ、とんとんと、あやすように突いてくる。
「あ、あ、あああ……ッァ、あ」
「かわいい。しゅんちゃん♡ あとで一緒にみようね♡ ここもゆっくり可愛がってあげる♡」
柔らかくなった俊の棒はぬるついて、裏筋を親指で押しながら、いとおしげに愛撫される。
「あ、あ、あ、や、やだ、やだ」
「しゅんちゃん、すき、すき、愛してる♡」
そばかすに何度もキスの雨を降らせ、完璧な笑みでユーリは腰を振った。
「……っ、あ、あ、ッ。おまえは俺を捨てるんだ……」
「なにいってるの? しゅんちゃん捨てたら生きていけない。ずっと一緒だよ♡」
「や、やだよ、あ、アッ」
首を振りながらも、たぐい寄せて、孔の入口をぴたりと根本まで合わせた。浮き出た雄が腹から見え、びゅくびゅくと白濁した蜜をたらしてしまう。研ぎ澄まされた五感が快感に浸り、そばかすを痕が残るぐらい吸われる。嵐のような、それでいて熱帯の海の底にいるような狂った感覚がした。
「すきだよ、しゅんちゃん」
「し、信じない」
「信じるまで突いてあげる♡」
「あ、や、や、っ。ああああああああ」
「ふふ、薬の効きはまあまあかな。レビュー星三つだね♡」
「いく、いく、いってる、いって、あ、あ……」
ガクガクと痙攣する俊の唇に噛みつき、ユーリは限界まで桜色に膨らんだ雄で孔をひろげて射精する。それでも動きは止められない。たっぷり愛したいのにこの深い快感に勝てない。何度もなかに出して、尽きるまで動いた。
「愛してるよ、しゅんちゃん♡」
そばかすにキスを落として、優しく黒髪をなでつける。
終わりと、愛のはじまりの記録。
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