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1-1-始業式
彼が教室に入ってきた瞬間、桜の咲き渡る校庭に満ちていた春の香りが一緒に舞い込んできたような気がした。
「おはよう」
四月上旬、新学期の始まり、騒がしかった二年生のクラスによく通る声が気持ちよく響く。
「比良クン、おはようっ」
「また一緒のクラスになれて嬉しい!」
最初に駆け寄ったのは一際目を引く華やかな女子グループ、続いて後方の窓際を陣取っていた男子生徒らが彼の元へ集まった。
「シュウくんが同じクラスだと何かと心強い」
「なんかもう勝ち組の気分だわ」
親しげに肩を組まれて穏やかに笑う彼。
名前は比良 柊一朗 といった。
弓道部所属、適度に筋肉のついたしなやかな体つき、182センチという長身でスラリと長い手足。
短めの黒髪は涼しげで清潔感があり、お手入れ不要のナチュラルな上がり眉がキリッとした凛々しい顔立ちに磨きをかけている。
校内でも街中でも、どこにいようとぱっと目を引くメンズモデル並みのルックス。
これまでどの学年においてもクラスの中心に据えられてきた、誰もが認めるリーダー的存在であった。
(比良くんとまた同じクラス、ありがたや〜)
そんな比良を教室の片隅からこっそり拝んでいる彼。
名前は柚木 歩詩 といった。
可もなく不可もない凡庸な顔立ち、集合写真のときは後列に控えがち、身長164センチで体型も成績も平均値にやや至らない平々凡々な帰宅部生徒。
柚木は比良に憧れていた。
一年に引き続き二年も同じクラスになって、ぶっちゃけ飛び跳ねたくなるくらい歓喜していた。
(あそこにいる全員、アルファだ)
そう。
比良を含め、彼を取り囲む面子全員、優れた才能に富むアルファ性の男女だった。
(キラキラした集団。アルファ以外が近づくのだって困難だ。ていうか無謀だ)
そしておれはベータにしか見えない似非オメガみたいな奴。
同じクラスでも住む世界が違う。
いわゆる月とスッポン。
同じなのは人型ってところだけ。
(まー、ひっそり陰ながら拝んでるだけで十分です、なむなむ、ありがたや~)
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