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「今日は遅刻しなかったんだな、へっぽこオメガくん」
着席していた柚木は、いきなり背中にのしかかってきたクラスメートに「う」と呻いた。
「お、重たい、谷くん」
「まーた入学式のときみたいに制服汚して遅刻してくるんじゃねぇかなァって、心配してたんですよ?」
柚木と同じ中学校出身、前年度も同じクラスだった谷峻 は……ギンギラギンのパツキンくんだった。
薄いブルーのスクールシャツは第二ボタンまで外して耳にはピアス、見るからにヤンチャしていそうな外見だ。
アルファ性でありながら、アルファとつるまない、はぐれアルファみたいな不良男子は教室後方で群れているグループを冷笑した。
「新学期からもう徒党組んでやがる」
「あのさ、谷くん、入学式の話なんだけど。おれは遅刻してないからね? 普段の谷くんみたいにギリギリ間に合ったーー」
「あ。入学式の話なんかされたから忌々しい記憶が蘇っちゃった」
(入学式の話は谷くんが先に振ってきたんですけど)
「アイツに説教されたんですよねェ」
「アイツ」が誰のことを指しているのか十分承知している柚木は、ちょこっとだけ頬を熱くさせた。
今でも鮮明に覚えている。
『なんで制服汚れてんだよ、どっかで転んできたのかよ』
一年前の入学式、新品の制服を初日から汚して登校した柚木は同中だった谷に思いきり馬鹿にされた。
『まぁ、そんなところ……です、ハイ』
『高校生にもなって転ぶとか小学生ですか。しかも徒歩通学のクセして遅刻ギリギリ。いつまで経ってもアレだな、へっぽこ』
『おっしゃる通りです、ハイ』
『お前さ、ほんとにオメガ? 実はベータだろ?』
『自分でもそう思います、ハイ』
両性具有のオメガ性男子は、どこか儚げで、脆そうで、中性的な外見を持つ者が多かった。
全角度どこからどう見ても平凡男子の柚木は、そのことで中学時代から谷に散々からかわれてきた。
『将来、貰い手つくのか心配だわ。一生フリーなんてのも可哀想だし、もしものときは俺がもらってやるから有難く思えよ、ユズ』
谷の上から目線ジョークに慣れっこだった柚木は『わ~、さすが谷くん、懐が深いなぁ~、マリアナ海溝並み~』なーんて返していたのだが。
『高校生にしては時代錯誤的な思考回路じゃないか?』
柚木も、谷も、驚いた。
初めての教室で意識高い系のアルファ男女にすでに囲まれていたはずの比良が、いつの間に自分たちのそばに立っていた。
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