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『改良を重ねるに重ねた抑制剤のおかげでアルファとオメガの発情期はコントロールできるようになった。原始的な本能に人生を左右されるデメリットはほぼ消えたんだ。医療は常に進歩し続けて<第二の性>の壁は崩壊しつつある。だから。ヒートから解放されたオメガが生涯フリーでいるのも、数ある選択肢の中の有意義な一つだと思う』 柚木も、谷も、ポカンとした。 発情期とは縁のないベータ性のクラスメートは理路整然とした比良にうっとり見惚れていた。 聡明な光を放つ双眸で谷を見据えていた彼は、ふと眼差しを和らげると、わかりやすくフリーズしている柚木に視線を移し変えた。 『少しも可哀想なことなんかじゃない』 そう言って柚木の頭を撫でた。 初対面で頭を撫でられた柚木は、限界いっぱい目を見開かせ、優しい笑顔に釘づけになった……。 「相も変わらず信者どっさり侍らせて、いけ好かねーの、清廉潔白リーダー気取りの優等生クン」 一年前の回想にふわふわしていた柚木は我に返る。 複数のクラスメート越しに比良を挑発している谷に呆れた。 「目隠ししちゃおっと」 「ッ、おい、ユズ、あのなぁ……」 あんまりにもガン見しているものだから、好戦的な三白眼を両手で覆い隠せば谷は苦笑した。 すると。 こちらを向いた比良と目が合い、柚木は、慌てて顔を伏せた。 (比良くんと目を合わせるなんて恐れ多い) 五秒以上も合わせたら、多分、おれの心臓もたない……。

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