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手洗いスペースの前で三人のアルファに取り囲まれ、萎縮していた柚木は、トンデモナイ発言をブン投げられて青ざめた。
『コイツって純潔と思うか』
全身に鳥肌が立つ。
どうしてそんな問いかけが生まれたのか、次の展開を想像するのも嫌で、不快な檻の中で凍りついた。
『確かめてみるか?』
(うそでしょ!! この人達鬼畜ですか!! 絶対的悪役ですか!?)
『いっ……やだ、もう通してくださっ、塗り壁かっ、もご……!?』
騒いでいた口を片手で塞がれる。
それだけじゃあない、後ろから羽交い締めにされて容易く自由を奪われた。
『最下層のくせにシュウくんに認められるなんて身の程知らずめ』
『あの人の前に二度と立てなくなるくらい、傷物にしてやろうか』
『もう学校にも来るな。退学しろ』
(これもう極道さんだ……!!)
さすがの柚木も腹が立った。
口を覆う手に噛みつこうとした。
そのときだった。
入り口のドアが蹴り上げられて物騒全開で開かれたのは。
『何をしているの』
阿弥坂だった。
女王サマのまさかの登場にアルファ男子三人が今度は凍りついた。
『彼をレイプするつもり』
『っ……いや、そんなことするわけないだろ?』
『ちょっと、その、今朝のことでムシャクシャして、つい……』
『フザけてただけだよ』
柚木からさっと離れて言い訳を口々に述べた彼らに、阿弥坂は浅く頷いた、そして。
三人の片頬を順々に平手打ちにした。
乾いた音がトイレ内に三回、大きく響き渡った。
『犯罪行為になんか走って、私達アルファの顔に泥を塗らないで』
長い黒髪をサラリとさざめかせて「行って」と命令し、命じられた彼らはすごすごと廊下へ出ていった。
長身の男子生徒を次から次にバチンバチンした、オメガ男子用トイレで堂々としているアルファ女子に柚木はただただ圧倒される。
(キレッキレなビンタだった)
スラングまで使用して自分を罵ってきたアルファの女王サマではあるが、今のはどう考えても助けられた。
意図が読めない彼女に一先ず礼を述べようとした、ら。
『比良クンに認められたオメガ』
『ほぇっ?』
『私も認めてあげる』
(みっ、認められたくない……です!!)
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