212 / 333
24-1-お泊まり三日目
朝、目が覚めたとき、部屋に比良の姿はなく。
肌掛け布団をかけられていた柚木は背伸びがてら寝返りを打って「ふわぁ」と呑気に欠伸をした。
「……」
寝惚けてふやけていた奥二重まなこが徐々にはっきりと目覚めていく。
遮光カーテンに閉ざされているとはいえ、いやに薄暗い室内を凝視した。
(……比良くんに抱かれてしまった……)
なおかつマストくんにも抱かれてしまった。
同一人物ではあるんだけど、何せ性格もやり方も基本違うから別人としてカウントしてしまうというか。
(初夜が二回あったみたいな)
「ヒ……ヒワイだ……」
そういえば、いつ終わったんだっけ?
ハイ、これにて終了、おやすみっっ……みたいなの、あった?
「まさか、おれ、途中で寝落ちした……?」
寝落ちというよりも、実のところアルファに過激に溺愛される余り失神していた柚木は、肌掛け布団に包まって昨夜の記憶を手繰り寄せようとしたのだが。
騒々しい雨音にようやく意識が傾いてむくりと起き上がった。
「あ……あれれ……?」
そして自分の格好にもやっと気が付いて目を見張らせた……。
「そうですか、わかりました、気を付けて」
昨日と同じく、ぎくしゃくとした足取りでリビングを訪れ、すでに正午を回っていたことに柚木は驚愕する。
度を越えた「おそようさん」ぶり、しかもお泊まり先で……何たる失態だと自己嫌悪に苛まれそうになった。
「同じホテルですね、部屋が空いていてよかったです」
ソファに座った比良は電話中だった。
消音にされたテレビはニュースを流しており、その内容に柚木は「え」と思わず驚きの声を上げる。
「大雨特別警報?」
櫻哉と話していた比良はソファのそばで棒立ちになったオメガにチラリと目をやった。
「ええ、柚木はそばにいます……今、代わります」
すっと立ち上がると、ニュースに気を取られている柚木に自分の携帯を持たせ、わざわざ屈んで目線の高さを合わせた。
「柚木、母と話してくれるか?」
「う、うん……お母さん達、大丈夫なのかな? 学会があったところに警報が出てる」
「ああ。心配しなくていい。ただ高速バスは終日運休、他の交通網も麻痺していて今日の帰宅は無理そうだ」
「え!!」
携帯を持ったまま硬直しかけた柚木だが、電話口から櫻哉の呼びかけが聞こえ、慌てて対応した。
「もしもし! おはようございます! お世話になってます! はいっ……そうですね、はい……こんな大雨になるなんて……はい……え? えーと……その……はい、ひょっこり出てきましたけど……大丈夫でした……特に問題なく……、……、……今日も……ですか? えーと、その、うーんと……えっ、いえいえっ、とんでもにゃいっ……おれなんかでよければ……はい……ウチには自分から連絡するので、その、お母さんはぜひ雨に気を付けて……その、くれぐれもお体お大事にっ、ご自愛くださいっ、ご留意くださいっ……んがぐぐ……」
ともだちにシェアしよう!