213 / 333

24-2

しどろもどろに締め括って櫻哉との通話を終え、電話を切った柚木は、さっと顔色を悪くした。 「あ! 電話切っちゃった! ごめん比良くん!」 さらっとした手触りのダークベージュのサマーニット、ネイビーのハーフパンツを履いた比良はにこやかに返事をする。 「話は概ね済んでいたから大丈夫だ」 「お……おむね……そ、そっか……!」 特別警報が発表された地域に夫と共に出向いていた櫻哉は足止めを食らい、長引きそうな雨に今日中の帰宅は困難だと判断し、柚木にお泊まりの延長を頼み込んできた。 頼み込まれてお断りできない性格の柚木は承諾した。 まさかのお泊まり三泊目を受け入れた……。 「柚木、今日もここに泊まってくれるんだな」 「っ……なんか、ごめん、三泊も居座っちゃって」 「どうして謝るんだ? 母が頼んだことだし、それに俺も嬉しい」 (おれも嬉しいは嬉しいんだけど) 比良くんちに連泊するなんて恐れ多いというか。 気兼ねしちゃうといいますか。 そもそも雨だって心配だし……。 「柚木の服は洗濯に回したんだ」 返すタイミングを計りかね、比良の携帯を両手で大事そうにあやしていた柚木は、サイズの合っていないパジャマを着ていた。 ストライプ柄で涼しげな薄手の生地、長袖を雑に捲って手首を出している。 そして裾からは生足が……もちろん自前の下着は履いていた、しかし角度によってはノーパン……破廉恥スタイルに見えなくもなかった。 「う、うん、起きてびっくりした……これ、まさか寝惚けたおれが勝手にクローゼット漁って着たとかじゃないよね?」 「いいや、違う。俺が柚木に着せた」 外は土砂降りの雨。 悪天候を気にする素振りが一切見られない比良は、五月晴れと同等の効果がありそうな朗らかな笑顔を浮かべた。 「柚木が着ると別物に見える。可愛いな。よく似合ってる」 悪天候の最中に晴れ間が覗いたみたいな気分になり、大雨への不安が紛れかけた柚木であったが。 パシャ! 手渡した携帯で許可なく写真を撮られると警戒心旺盛な野良猫張りに飛び上がった。 「え! 今なんで撮りました!?」 「柚木が可愛いから指が勝手に動いた」 「えぇぇえ」 「この写真をSNSのアイコンにしようかな」 「お願い、それだけは勘弁してください、比良くん」 (と、突然にも程がある) 比良らしからぬ素っ頓狂な行為にどぎまぎしつつ、けたたましい雨音に不安を掻き立てられた柚木は彼に背中を向けて「おれのお母さんに連絡しなきゃ……」と自分の携帯を取りにいこうとした。 「柚木、怒ったのか?」 ピタリと止まった足。 後ろから比良に抱きしめられて一歩どころか身じろぎ一つできなくなった。 「ごめん。怒らないで……」

ともだちにシェアしよう!