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切実な声色で哀願されて柚木は益々カチンコチンしてしまう。
昨夜どころか今までのスキンシップ一切合切リセットされて、まるで初めて抱きしめられたような初々しい反応ぶりだった。
「浮かれたんだ」
腕の輪の中に引き止められてド赤面している柚木に比良は言う。
「柚木がもう一晩ここに泊まってくれる。柚木が俺の服を着てる。やっと、柚木と一つになれた……とにかく何もかも嬉しくて、つい、あんなこと」
「で、でも」
「うん……?」
「比良くんのお母さんとお父さん、ほんとに大丈夫かな、雨で戻ってこれないなんて」
柚木達が暮らす地域には注意報が出ていた。
今後の雨雲の流れからして警報に切り替わる可能性は低く、ただし警戒は怠らないようにとテレビのアナウンサーが注意を促していた。
「父と母が今いる場所は災害の危険性がある河川も山もない市街地だ。無理をして闇雲に移動するよりも安全な場所に留まった方がいい」
「そ、そっか、そーだよね、うん」
「宿泊先も去年にオープンしたホテルで頑丈な建物なんだ。俺も一緒に行ったことがあるからわかる」
「ほんと? よかった……」
心から両親の身を案じている柚木に比良は胸を熱くさせた。
両腕の輪をさらに狭くする。
すり……と後ろから愛おしそうに擦り寄った。
「俺の家族を心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから。不安にならなくていい」
『やっと、柚木と一つになれた』
ワンテンポ遅れて柚木の脳内に届いた台詞。
噛み砕いて、呑み込んで、伸びやかな両腕に締めつけられている胸に一つ残さず染み込ませた。
(比良くんにそう言われると益々実感が湧いてきた)
「……おれ、怒ってない……」
彼の両親の安全が確保されていると聞かされて落ち着いた柚木は、顔を伏せ、もごもご呟いた。
「いきなり写真撮られて、比良くんっぽくないことされて、びっくりしただけ……あと、その……おれも嬉しいです、ハイ」
「そうか。柚木も俺と同じ気持ちでいてくれて、もっと嬉しい」
うなじに触れた囁き。
続いて唇まで。
パジャマの襟をずらされて軽くキスされた。
いつにもまして感度の上がっている聖域に柚木はちょっとばっかし混乱する。
些細な感触にピリピリと痺れ、無視できない熱が生じて、奥二重まなこを頻りにパチパチさせた。
「ひ……比良くん……」
「噛まないよ」
でも、いずれ。
心の中でそう囁いて比良は最愛なるオメガの聖域を見つめる。
うっすら紅潮する肌に刻まれた唇の痕を。
「柚木、お風呂に入ろう」
突然の指示に柚木は戸惑い、そしてハッとした。
「おれ汗くさい!?」
「いいや」
比良は本人に気づかれていないキスマークを唇でさり気なくなぞる。
「雨が降って気温が少し下がった。除湿を効かせている分、体が冷えたらいけない」
正直、比良の温もりに包み込まれて体が冷えるどころではないのだが「お気遣い、ありがと、です」と柚木は礼を述べておいた。
「一緒に入ろう」
続いた言葉に目が点になった。
「その前に……」
ぐ、と両腕に力がこめられて「ん」と抑えきれずに声を洩らす。
黒曜石の瞳まで昂揚させた比良は所有欲の滲む痕を優しく食んだ。
「柚木がほしい」
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