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6-1-ラット

冷たい空気が充満する廊下で柚木は比良に繰り返しキスされた。 「ん……!」 壁伝いに抱き上げられて浮いた両足。 狂的なまでに熱い体と壁に挟み込まれて無抵抗の唇を長々と求められる。 かつてない激しさで満遍なく、暴君じみた舌先に口内を制圧された。 (溺れそーだ) 柚木は比良の肩におっかなびっくり両腕を回し、その身を明け渡していた。 彼に吸われ、噛まれ、(ねぶ)られたところが露骨に疼き出す。 疼き出したところを改めて絶え間なく刺激されて恍惚感が暴走気味に湧き上がってくる。 「ふ……ぁ……っ……ん、ん、っ……ンンン……っ」 発情期だというアルファに正に貪られて喰らわれる悦びに呑まれかけた。 「柚木」 だが、まだ通話が繋がったままの携帯から声が聞こえてくる度に柚木は正気に戻った。 「ッ……眞栖人くん……」 つい名を呼べば制裁さながらに深く塞がれた唇。 「俺に濡らされた唇で別の名前を呼ばないでくれ」 粟立つ首筋で投げ遣りに哀願した後、比良は廊下に落ちていた携帯を置き去りにし、柚木を部屋の中へ。 有無を言わさない手つきでダッフルコートを脱がしてベッドの上へ横たえた。 (ほんとにこのまま……) ベッド脇に立つ比良に見下ろされて柚木の心臓は過剰に戦慄いた。 (怖がるな) これでいーんだ。 おれはどうなってもいい。 「あ……」 自分のテリトリーへ連れ込んだオメガに別格のアルファは覆い被さる。 顔の輪郭に沿ってキスを散りばめ、吸血鬼の如く首筋を啜りながら、チェック柄のネルシャツに利き手を潜り込ませた。 ぷにぷにした腹から脇腹にかけて撫で上げる。 そのまま服を捲り上げ、外気に曝した肌にも存分に口づけた。 「ぅ」 胸の突端にまで口づけが及んで柚木は涙ぐむ。 突起が傾くほどに舌尖で虐げられると反射的に片手で口元を覆った。 今まで特に意識したこともなかった場所に降り注ぐ捕食的なキス。 羞恥に表情を捩じらせたオメガは堪らず胸を反らし、ひたすら盛るアルファとベッドの間でもどかしげに身悶えた。

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